かゆいところに手が届く 「立科WORKTRIP」のおもてなし/渡邉岳志
コーディネーター
「問い合わせをもらったら、企業が決裁印を喜んで押したくなるような企画書をできるだけ迅速に送る」。圧倒的な企業目線にこだわり、立科町でのワーケーションをコーディネートする、(一社)信州たてしな観光協会 専務理事の渡邉岳志さん。日本ワーケーション協会の「公認ワーケーションコンシェルジュ」の初代認定者でもある渡邉さんに、立科町の取り組みについて伺いました。
自身の働き方を見直したら立科に
― ご経歴と、立科町に関わるきっかけについて教えてください。
立科に来るまでは、足掛け20年ほど広告業界で仕事をしていました。その当時、業界では長時間労働が当たり前で、土日も関係ないし、1日20時間働くことにも疑問をもっていませんでした。でも、ある日、家族の葬儀の席でもパソコン開いている自分がいて。ふと自分を俯瞰して「これ、人間として駄目だな」と思ったんですよ。
その後、自分がやりたいと思っていた中小企業や小規模事業者のサポートをする「長野県商工会連合会」に転職し、立科町の商工会に指導員として赴任することになりました。
― それからどんな経緯で観光協会に勤務されることになったんですか?
もともと任期は2年間なのですが、その間に立科町のみなさんといろいろな企画にたずさわることが出来て。もうちょっとこの町にいたいなと思ったところに、ちょうど観光協会を発足する話があって、声をかけていただいたんです。
― 現在はどんなお仕事をされているんですか?
観光協会の職員として、「立科町に1人でも多くの人を呼び込み、1秒でも長く滞在していただき、1円でも多く観光消費していただく」ということがミッションです。
その一環で、「立科WORKTRIP」としてワーケーションの開催を誘致する事業を開始しました。スタート期はたくさん失敗をしつつも、現在では日本ワーケーション協会の「公認ワーケーションコンシェルジュ」に認定いただき、立科でのワーケーションのコーディネーターも務めています。
ワンストップのコーディネートが好評
― 渡邉さんといえば、企業目線で柔軟にコーディネートしてくださるというイメージがあります
ワーケーションの幹事を任されて困っている人って、けっこう多いと思うんですよ。予算を確保するにも決裁を取らないといけないし、どこでなにをしたらいいか決めるのも大変。
僕らは仕事のお手伝いは出来ないけれど、仕事に集中出来る環境を提案することはできる。
そのために、企業側が決裁印を押しやすいような企画書を迅速に送りますし、できるだけ荷物を減らせるように機材も貸出しますし、経費精算の手間を省けるように滞在費をインクルーシブした請求書をつくります。ユーザーからは「まとめてコーディネートしてくれるから、とにかく楽です」という声もよくいただきます。
われわれは観光協会なので、地元のホテルや飲食店と連携することが可能。それぞれの目的やニーズにあわせた柔軟な対応ができるんです。
― 企業側のニーズをとらえた、本当にきめ細かい対応ですね…!
僕、これから今度ワーケーションで来られる方のために新幹線のチケットを買いに行くんですよ(笑)
企業側は支払いが1度しかできないので、われわれが購入代行してチケットをお送りするんです。
車両がバラバラになっちゃうと、待ち合わせが大変。でも隣同士の席をまとめて取ると、誰の隣に座るか、車中でどう過ごすかに気を使わないといけない。そこで「このあとずっとみなさん一緒なので、車両は一緒だけど席を散らしませんか」といったご提案もします。
― 友だちとの旅行ではないので、オフタイムの過ごし方も重要ですよね
そう。気分転換のつもりで設定したアクティビティも、慣れてないスポーツを上司とやれば疲れちゃうこともある。湖を一周したいって人もいれば、湖を眺めているだけで満足という人もいる。こちら側も押し付けないようにしていますし、あんまり予定を詰め込みすぎないようアドバイスすることも。
でも、仕事が行き詰まっていそうだな…とお見受けした際には、「秘密の絶景スポットへちょっと一緒に行かないっすか?」と声をかけることもありますよ。顔色をみながら、付かず離れずな距離でのおもてなしを心がけてます。
― お越しになるユーザーの傾向はありますか?
データをみると、業種の偏りはなくて、保育や美容に関する企業など、いわゆるIT系以外の企業のご利用も多いんですよ。
思うに、今までワーケーションはIT系企業の人がするものみたいなイメージがたぶんあって。でも、リモートワークが普及したことがきっかけで、オフィスじゃなくても仕事ができるということが市民権を得たからじゃないかなと感じています。
例えば保育施設を運営するような企業でも、事業計画や経営会議など、パソコンで数字をみながら話し合う場は必須じゃないですか。そのようなかたちで、オフサイトミーティングやアイデアソンなど、それぞれの企業でのミッションやタスクを持ち込んでお越しいただいていますね。
― そうした業務を立科という土地で気分変えてやってみようという方が多いのでしょうか…
もちろん「高原リゾート地に行って気分を変えたい」というニーズもあるんですが、それ以上に最近多いのが「社員や外部パートナーと久々に会いたい」ですね。リモートワークが続いているので、リアルなコミュニケーションを補うかたちで。
出発地として首都圏が多いかと思いきや、意外に全国バラバラだったんですよ。通勤がなくなったから全国各地に移住した人も多くて、日本中に散らばってる人たちを集めるなら真ん中の長野じゃない?となるケースもあるようです。
みんなで泊まってガッツリ仕事をする、それもワーケーション
― ユーザーからの声で印象的だったものは?
「今までバケーションメインのワーケーションしかしてなかったけど、こういうふうにみんなでガッツリ仕事するのもいいんだなって思えた」と、立科がきっかけになってワーケーションの考え方が変わったと言ってもらえるのが一番うれしいですね。
ワーケーションをブームとして終わらせたくなくて。働き方として残っていくものだと思っています。
われわれにとっても、ワーケーションは立科に来ていただくためのチャネルのひとつで、「ワーケーションでこの町変えるぞ」とも思っていない。文化としてじっくり根付いて、受け入れ側もちょっと忙しいのがずーっと続くみたいなのが理想です。お互い無理しない。とはいえ、まあ僕は若干無理してるかも。でも、楽しいんで(笑)
― コーディネーターをしていて、どんな瞬間が楽しいですか?
知らない土地に行くときって、「行って何ができるのか」、「どういう人がいるか」ってわからないじゃないですか。自分のことを誰も知らない土地へ行くのと、自分のことを1人でも知ってる人がいる土地に行くのってだいぶ違うと思うんですね。
たとえば僕が今やっているようなメールでのご案内は、AIやbotで代替しようと思えば出来るけれど、ユーザーが求めているものは完璧な返答ではなく、「知らない土地へ行く前に誰かと繋がれるかってこと」なのかなと。
だから事前のご案内は生身の人間がやるべきで。そうやって1社1社とやりとりをしていって、実際来てくれたときに「あなたが渡邉さんだったんですか」「想像してたより背低いですね」みたいな話をするとき、すごく楽しいです。それでランチとか焚き火とかにも、向こうから誘ってくれるんです。長野県の田舎にいながらいろんな企業の方にも出会える。こんな経験、なかなかないと思うんですよね。
― たしかに。その土地を訪れる理由のひとつに「人」ってある気がします
でも、「またぜひ次回も立科に来てください」ってあまり言わないようにしていて。僕がユーザーの立場だったら、毎回同じ場所のワーケーションって、オフィス行くのと大差なくなっちゃうと思うんですよ。
「今回山だったから、次は海どう?」「今回はガッツリ仕事して、次は遊びメインに」とか、全国各地でワーケーションしてもらって、一周したら立科に戻ってきてもらえたらそれでいいんです。なので受け入れ側としても、他地域と連携して誘客できるようになれたら。
もちろん、立科へまた行きたいなと思っていただけることはうれしいですし、仕事は全部置いて家族や友だちとバケーションでお越しいただくのも大歓迎です。今度はどのカードにしようかなって選択肢があるくらいがいいですよね。
― ありがとうございました
立科WORKTRIP公式サイト https://work-trip.com/