〜越境ラーニングが創る個と組織の未来〜ビジネスカンファレンス「クリエイティブコネクト2025」レポート【前編】

事例紹介 

“旅先の仕事場”が当たり前にある風景

カンファレンス開始の1時間前。参加者に解放されたフリースペース「KURUMI」には、すでにPCを広げる参加者の姿がありました。大きな窓の向こうには一面の紅葉。オンラインミーティングをこなし、急ぎの資料に手を入れながら、合間にはコーヒーを片手に外の景色を眺める——。「イベントのついでに少し仕事をする」ではなく、“ここで働くこと自体”が日常の延長線上にある。

カンファレンス会場のすぐ隣に、こうした仕事場があることは、信州リゾートテレワークが目指す世界観そのものです。オフィスか旅先か、仕事か余暇かではなく、その境界線をゆるやかに溶かしながら、働き方と出会い方をアップデートしていく。ワーキングスペース「KURUMI」は、その象徴的な空間になっていました。

「その共創は本物か。」を、軽井沢で問いなおす

紅葉がピークを迎えた軽井沢プリンスホテルWEST。色づいた木々に囲まれた会場に、企業、行政、地域のプレイヤーが集まりました。ビジネスカンファレンス「クリエイティブコネクト powered by 信州リゾートテレワーク」 、3回目となる今回は、「その“共創”は本物か。」をテーマに開催されました。

信州リゾートテレワークがつくろうとしているのは、「自然の中で気持ちよく働ける場所」だけではありません。異なる立場・世代の人たちが同じ空間で仕事をし、語り合い、ときにぶつかり合いながら、新しいプロジェクトや関係性を生み出していく「共創の土台」です。今回のクリエイティブコネクトは、その思想がもっとも凝縮された一日でした。

インスピレーショントーク①

共創とは「変容のデザイン」である

最初の登壇者は、株式会社日建設計イノベーションデザインセンターの吉備友理恵氏。建築・都市デザインの大手で、社内外のプレイヤーをつなぎながら共創をデザインする“繋ぎ手”です。

吉備氏は、イベントテーマ「その“共創”は本物か。」に触れながら、問いを投げかけました。共創と協業は何が違うのか。本物の共創とは何か——。

そこで提示されたのが、「共創とは“変容のデザイン”である」という、明快な定義でした。

共創とは、単に一緒に何かを進める「協業」ではありません。関わる一人ひとりや組織が、プロジェクトを通じて考え方や行動を変えていく「変容」のプロセスそのもの。吉備氏は、そんな共創の現場で起きていることを、具体的な実践例とともに語りました。

「空飛ぶクルマ」が教えてくれること

印象的だったのが、「空飛ぶクルマの社会実装」をテーマにしたプロジェクトです。

空飛ぶクルマは2030年の社会実装が語られる一方で、設計図面には離着陸場の姿がない。そんな危機感から、日建設計の若手たちが「もっとわくわくする建築をつくりたい」と声を上げたことが、プロジェクトの出発点でした。志はあるものの、つながりがない。そこで吉備氏が動き、ルールをつくる官庁や、ドローン実証に取り組む自治体など、多様なプレイヤーを結びつけていきます。

小さな離着陸場の実証実験から始まった取り組みは、官民のワーキンググループや都市計画の議論へと広がり、2024年には社内に専門部署が立ち上がるまでに成長しました。

一人の問題意識から始まった問いが、複数の組織を巻き込み、役割の違う人たちの「変容」を促しながら、新しい社会のかたちを描いていく。

吉備氏は最後に、こう語ります。

「課題意識を共創の場に持ち込み、自分の「やりたいこと」「違和感」を形にしていく。それがまた仕事になっていく。この課題意識と提案の循環こそが、企業と個人、社会をつなぐ共創のサイクルだと思っています。」

信州リゾートテレワークの場もまた、「自分一人では解けない問い」を持った人たちが集い、互いの変容を通じて、新しい仕事や地域のあり方を模索するためのフィールドになり得る。そんな可能性を感じさせるセッションでした。

インスピレーショントーク②

“当たり前”が刷新された時代に、どこで・誰と働くか

2人目の登壇者、箕浦龍一氏(一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム)は、総務省で働き方改革やワーケーション推進に携わり、現在は大学でパブリックマネジメントや地方創生を教えています。

箕浦氏が最初に指摘したのは、DXによって“当たり前”が刷新された今、「出社かテレワークか」という二項対立は、すでに時代遅れであるという点でした。

セルフオーダー端末が普及した飲食店、キャッシュレス決済が前提となった街、駅構内のテーブルや個室ブースでオンライン会議に参加する人たち——。

こうした日常の光景を挙げながら、「コロナが明けたから出社回帰」という単純な議論は、現実の変化に追いついていないと語ります。

変化のスピードが加速するなかで、自分たちの“当たり前”が外から見るとガラパゴス化しているのに気づかないこと。それこそが、今の日本にとって最大のリスクだと箕浦氏は言います。

「人は、人としかつながらない」マグネット人材という視点

議論はやがて、地域政策のキーワードになっている「関係人口」に移っていきます。ここで印象的だったのが、次の一言でした。

「人は、人としかつながらない。地域の観光コンテンツや企業のブランドとつながっているのではなく、直接つながっているのは“人”なんです」(箕浦氏)

どれだけ魅力的なコンテンツや環境があっても、人を深いレベルで惹きつけるのは、やはり「人」。面白い人が磁石のように人を引き寄せ、惹きつけられた人たち自身がまた磁石(マグネット)となって、新たな人を連れてくる。箕浦氏は、そうした「マグネット人材」が信州各地に存在していると指摘します。

オンラインで多くの情報にアクセスできるようになった今だからこそ、現地に足を運び、そこで暮らす人たちと直接出会い、対話することの価値は高まっている。信州リゾートテレワークの価値も、まさにここにあります。「どこで働くか」だけでなく、「誰と出会い、どんな関係性を育てるか」。その両方をデザインする仕組みとして、信州というフィールドを開き続けているのが、信州リゾートテレワークなのだと感じさせるトークでした。

インスピレーショントーク③

仕事・学び・遊びが循環する「第四世代」の働き方

3人目の登壇者は、EKKYO.HUB代表の田中律羽氏。大手メーカーで経営戦略に携わる一方、若者の越境と共創の場をつくるクリエイティブユニット「EKKYO.HUB」を主宰しています。

EKKYO.HUBの原点には、「トビタテ!留学JAPAN」のプログラムを通じて出会った、多様なバックグラウンドの仲間たちとの対話があります。環境も価値観も異なるメンバーと、砂漠を走る夜行バスの中で何時間も議論を交わした経験から、田中氏は次のように感じたといいます。

「最初は『この人とは合わない』と思っていた相手と、本気でぶつかり続けるうちに、わかり合えないこと自体が楽しくなっていった。わかり合えないことに、絶望ではなく新しい感性と可能性を感じたんです」(田中氏)

自分とは違う前提を持つ他者と、本気でぶつかり合いながら新しい感性を耕していく。この感覚をもっと広げたい。そんな思いから立ち上がったのが、EKKYO.HUBです。

上田のまちを舞台に、「まだ見ぬ自分」と出会う

EKKYO.HUBの象徴的なプロジェクトが、年に一度の「EKKYO.SUMMIT」。2025年の舞台となったのは、長野県上田市でした。

市民会館のホールや商店街の空き店舗、まち中のさまざまな場所を使いながら、トークセッションやワークショップ、ライブパフォーマンスなどが同時多発的に展開されました。

特徴的なのは、「学ぶ」「考える」だけでなく、まちを歩き、人と出会い、偶然の対話が次々に生まれていく設計になっていること。

参加者アンケートには、
「久しぶりに生きている実感が持てた。魔法のような3日間だった」
「この瞬間を生きる大切さ、儚さを実感した。今を生きることを考えた」といった言葉が並びました。

上田という地域の空気と、そこに暮らす人たちとの出会いが、参加者一人ひとりの内側に強い手応えを残していることが伝わってきます。

第四世代の働き方と、リゾテレが描く未来

田中氏は、自身たちの生き方を「第四世代」としてこう位置づけます。

第一世代:終身雇用のサラリーマン
第二世代:サラリーマンから起業へ
第三世代:サラリーマンをしながら副業
そして第四世代は、本業と副業、仕事と趣味を切り分けず、仕事・学び・遊びがぐるぐると循環し、相互に影響し合う生き方。

EKKYO.HUBのメンバーには、EKKYO.HUBだけを本業にしている人はいません。それぞれが企業で働きながら、越境の場づくりを通じて自分の感性やキャリアを耕し、それがまた本業にも還元されていく。こうした「循環型」の生き方は、信州リゾートテレワークが描く未来像とも重なります。
オフィスを離れ、信州というフィールドに身を置くことで、仕事のやり方だけでなく、学び方や遊び方、人との付き合い方が変わっていく。その変化がまた、仕事の質やキャリアの方向性に跳ね返ってくる。信州リゾートテレワークは、まさにそうした「第四世代的な働き方」を試し、育てていくためのインフラでもあると言えるでしょう。

田中氏は最後に、こう問いかけました。

「答えがわかっているものを、わざわざ確認して進まなくていいじゃないですか。せっかく集まったのだから、アイデアや意思を本気でぶつけ合いながら、まだ見ぬ『面白そう』を開拓していけたら、日本も世界ももっとおもしろくなると私は考えます」(田中氏)

後編につづく──リゾテレがひらく「共創の現場」へ

イベントレポート後編では、以下3つのブレイクアウトセッションを通じて、そのリアルをお届けします。

  • 『楽しい』が育む共創の現場~白馬村『チャレンジ白馬』の実践と進化の軌跡~
  • 行政と企業が『当たり前』を『リ・デザイン』し、社会を変革する未来
  • グローバル企業の実践例 × 次世代の感性〜長野でひらくデジタル人材育成