〜越境ラーニングが創る個と組織の未来〜ビジネスカンファレンス「クリエイティブコネクト2024」レポート記事【後編】
事例紹介
「越境ラーニングが創る個と組織の未来」をテーマに開催されたビジネスカンファレンス「クリエイティブコネクト」の様子をレポートしていきます。
イベントレポート前編では、「越境学習が組織にもたらすもの〜3つの視点で自社の打ち手を考える」をテーマに行われたディスカッションをレポート。越境学習が組織や個人にどのような効果をもたらすのかについて語られました。
イベントレポート前編はこちら
後編では、越境学習について「ビジネス空間」「地方副業」「ウェルビーイング」など、3つのテーマによるブレイクアウトセッションの内容を振り返ります。
<テーマ1 シゴトの未来:コラボレーションが生む新たなビジネス空間>
こちらのセッションのテーマは、「コラボレーションが生む新たなビジネス空間」。
〈登壇者〉
井田 幸男(いだ・ゆきお)氏 コクヨ株式会社 CSV本部 サステナビリティ推進室 室長。 1988年入社。人事、提案営業、マーケティング、全社構造改革の業務を経て、2021年より現職、室長に就任。2000年~05年の活動では自社の事業を働き方提案へと変えるべく、事業構造の変革をマーケティング担当役員として取り組む。現在は、長期ビジョン『ワクワクしたワークとライフ』の実現に向け、サステナブル経営と新たな組織文化の推進に取り組み中。仕事に向き合うコンセプトは「WORK HAPPY」。 |
津田 賀央(つだ・よしお)氏 Route Design合同会社 代表/ 富士見森のオフィス 運営代表 / PILE -A collaborative studio- 運営代表。 2001年から広告会社、東急エージェンシーでデジタルコミュニケーション領域のプランナーとして国内クライアント企業のデジタルプロモーションに従事。2011年末からはクラウド技術を用いたサービス開発やプロトタイプデザイン、UX設計のプランナーとしてソニーに転職。2015年、長野県富士見町に移住し、Route Design合同会社を設立。同町役場の移住促進施策として「富士見 森のオフィス」を立ち上げ、運営代表を務める。コミュニティ作りやブランドコミュニケーション、新規事業支援、ソーシャル/コミュニティデザインに幅広く取り組む。2023年4月、横浜市にクリエイター向けコワーキングスペース「PILE」を立ち上げる。趣味はマウンテンバイク、スノーボード、クライミング、音楽制作。 |
〈モデレーター〉
入江 真太郎(いりえ・しんたろう)氏 一般社団法人日本ワーケーション協会代表理事 長崎生まれ。幼少期には東北や関東、学生時代は四国と関西地方に暮らす。京都・同志社大学社会学部卒業。現在は大阪府在住で京都を事業拠点とする。(株)阪急交通社等で旅行業他様々な業種を経験後、ベンチャー企業から独立起業を経て、観光事業やその他海外進出支援事業等を展開。北海道から沖縄まで、各地と関わりを深めていく。各地で暮らした経験から地域共創や豊かなライフスタイルや働き方の実現に関心が高い。2022年より信州リゾートテレワーク・コーディネーターとして、関西と信州の往来を頻繁に行っている。子ども環境情報紙エコチル西日本エリア開発室長。 |

コロナ禍でリモートワークの導入が急激に浸透し、フリーアドレスやABWなどオフィスのあり方も広がってきています。また、ワーケーションや地方副業などワークスタイルも多様化しつつあります。
コミュニティ作りやブランドコミュニケーション、新規事業支援、ソーシャル・コミュニティデザインなどで様々な地域との接点をもつ津田氏は、ワーケーションの課題感を次のように話します。

「よくあるのが、会社から予算の許可が降りずに内緒でこっそりきているパターンですね。どうしても、まだワーケーションにはサボるのではないか、遊びとは何が違うのかというイメージがあります。もっとワーケーションを推進させていくには、いかに会社が寛容になれるかだと思います」
前半のパネルディスカッションでも登壇をした井田氏は、社内の人たちを野放しにする勇気が会社に必要であると述べたうえで、さらに受け入れる地域側も寛容性をもつことが重要だと語ります。

また、社員が越境することで生じる効用について、津田氏は「物理的に移動(越境)することや、異なる組織や地域に関わることで個の力が鍛えられて、結果として組織の意思決定に良い影響を与えるのでは」とコメント。
ワーケーションなど組織がイノベーティブな取り組みを推進していくうえで、井田氏は「出島型組織」の概念に言及。「出島型組織」とは、企業が新規事業やイノベーションを推進する際に既存の組織から独立した部門やチームを設ける手法を指します。本体の組織と離れているため、意思決定のスピードが速い、スタートアップや外部の組織と連携しやすい、既存のビジネス資産を利用しながら新たな事業を模索できる、出島型組織の成果を本体の組織に還元するなどのメリットがあります。出島型組織の概念は経済産業省や経団連も推奨しており、日本発のコンセプトとして広められています。 また、津田氏は「我々が運営する『プロジェクト創出ワークショップ ignite!』も、出島型組織に非常に近いです。それを意図して設計したわけではありませんが、枠をはみ出るような場を作ることが、僕らのような場には求められていることなのかなと思います」とコメント。

その他、クロストークで挙がった話題、まとめはこちら
・企業の価値は財務価値だけではない。人的資本経営を理解することが大切
・コミュニティや組織づくりでは“土作り”が非常に大事。肥沃な大地の上には豊かな動植物が住む
・何が生まれるかわからないものに寛容になれるかが極めて重要
<テーマ2 越境学習で育む自律型プロフェッショナル:地方副業の新たな可能性>
こちらでは、「地方副業の新たな可能性」をテーマにディスカッションが行われました。
〈登壇者〉
越川 慎司(こしかわ・しんじ)氏 株式会社クロスリバー代表取締役社長。 国内通信会社などを経て、2005年にマイクロソフトに入社、PowerPointやExcel、Teamsなどの責任者などを歴任。2017年に株式会社クロスリバーを設立。全メンバーが週休3日・複業(専業禁止)をしながら800を超える企業や団体の働き方改革を支援。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」などメディア出演多数。音声メディアvoicyパーソナリティとして毎朝配信。オンライン講座は年間400件以上。著書30冊『トップ5%社員の読書術』など。 |
横山 暁一(よこやま・あきひと)氏 NPO法人MEGURU 代表理事 / 合同会社en.to 代表社員 1991年生まれ、静岡県沼津市出身、長野県塩尻市在住。名古屋大学卒業後、インテリジェンス(現:パーソルキャリア)に入社。2019年からはパーソルキャリアと兼業する形で長野県塩尻市の地域おこし協力隊として、塩尻商工会議所の地域人材コーディネ-ターに着任。2020年には並行して「地域の人事部」をテーマとしたNPO法人MEGURUを設立。産官学金のコレクティブインパクトによる地域の人材課題解決に挑戦中。その他、地域の30人の出資者とともに空き家を活用した滞在型交流拠点en.toの立ち上げも行っている。 |
〈モデレーター〉
小池 ひろよ(こいけ・ひろよ)氏 PerkUP Inc. CCO / CO’RE LLC 代表 国際カンファレンス(MICE)の企画・運営・全体統括などをオーガナイズ。海外連携、エリアブランディング(地域活性)・コミュニケーション領域を軸にした活動の幅を広げる。渋谷区在住。2018年より一般財団法人渋谷区観光協会 理事 兼 事務局長。 ・千葉県ICTアドバイザリー会議 委員 ・三重県デジタル社会推進局 みえDXアドバイザーズ ・一般社団法人日本ワーケーション協会 公認コンシェルジュ ・一般社団法人日本フェムテック協会 顧問 |

副業解禁やテレワークの普及などを通じて、地方副業に関心や興味をもつ人が増えています。
パネリストの横山氏は、パーソルキャリアに勤めながら、兼業として長野県塩尻市の地域おこし協力隊をしていた経験をもちます。現在は「地域の人事部」をテーマとしたNPO法人MEGURUの代表理事を務めています。

「ローカルで働くことは可能性しかないと感じています。例えば、私は今塩尻を拠点に活動をしていますが、新たな事業やプロジェクトに挑戦する人は多くありません。すぐ目立って新聞に掲載されることもあり、自分で考えてアウトプットできるチャンスが、地方にはゴロゴロ転がってるんじゃないかなと思っています」と地方副業の可能性に言及。
続けて「また、地方は人と人との距離が近いから、目の前の人をよろこばせる仕事ができるし、また直接フィードバックをもらえるので、改善サイクルをスピーディーに回すことができます」とコメント。
前半のパネルディスカッションに登壇した越川氏は「全国民副業時代」が来ると話します。
「理由は3つあって、1つめが日本の労働力不足の問題。1人1社に所属するだけでは確実に人手不足に陥ります。2つめはテクノロジーの進展です。AGI(汎用人工知能)の到来によって事務作業などのオフィスワークは代替されていきます。3つめは、人がもつ能力の可能性です。やはり、1つの組織や環境に留まるよりも、他の地域や企業に所属することによって、もっと能力は発揮できると思っています」と越川氏。
話は社内コミュニケーションやチームビルディングへ。ここで越川氏は「皆さんに質問です。うまくいっているチームは、共通してどのような言葉をかけていると思いますか?」と参加者に問いかけます。

「正解は『今ちょっといいですか』。この言葉が出るということは、そもそも時間と心にゆとりがあって、さらにいつでも互いに相談し合える関係性を構築できている証拠なんですね」と越川氏。
さらに、自身の会社で支援している事例を紹介。それによると、会議の場では上の役職者に気を遣ってなかなか意見を出せないことが往々にして起こるそう。イノベーションの種は会議室ではなく廊下で始まる立ち話から生まれると言及しました。
これから地方副業にチャレンジしたい人が悩むのが「どのように仕事と休みの折り合いをつけるか」という問題でしょう。
NPO法人MEGURUで、滞在型交流拠点en.toの立ち上げや青年会議所など多岐にわたる活動をしている横山氏は、「仕事と休みを区別せずに、働くという言葉を『自らの意志で自分と誰かを幸せにするアクション』と定義することで、もっと柔軟に楽しく動けるのでは」と話します。
さらに、越川氏は副業をする際には、ワークライフバランスのようにワークとライフの二項対立で考えるのではなく「ワークインザライフ」や「ワークライフハーモニー」という考え方が重要であることに触れました。
その他、クロストークで挙がった話題、まとめはこちら
・地方副業はやりたいことや好きなことを続けるうちに、結果としてプロジェクトが回り出して活躍するケースが多い
・地方副業では、自分ゴト化して物事を捉え、手足を動かすスタンスがとても重要
・地域の見つけ方で大切なのは、「人」と「関わりしろ」
・課題解決よりも、まず地域の人との信頼関係を構築することが何より大切
・挑戦ではなく体験を積み重ねる。体験に成功と失敗はない
・刺激を与えてくれる人がいる環境に身をおく。刺激は継続の原動力となる
<テーマ3 従業員幸福度が変える組織の力:ウェルビーイングとインターナルコミュニケーションの未来>
こちらセッションのテーマは「ウェルビーイングとインターナルコミュニケーションの未来」。
〈登壇者〉
椎野 磨美(しいの・まみ)氏 株式会社KAKEAI チーフエバンジェリスト。 新卒でNEC入社。組織開発・人材育成業務に約21年間従事。1992年「ワーケーション&ブレジャー」、1995年「ハイブリッドキャリア」を開始。「新しい働き方」の実践者として、「時代の25年先を歩くヒト」と評される。会社員としては、日本マイクロソフトを経て、日本ビジネスシステムズにて社員が働きやすい環境づくりを推進、「2017年働き方改革成功企業ランキング」初登場22位の原動力となる。その後、環のCHO(チーフハピネスオフィサー)を経て、2023年5月より現職。「もとめられていること」=「やりたいこと」=「できること」で、個人の幸せと組織の成長を実現する、ワークライフインテグレーター。 |
森 和成(もり・かずなり)氏 株式会社ライジング・フィールド 代表取締役社長 「和を成し、人・組織の可能性を切り拓く」がMission(志)。元 アクセンチュア株式会社 ディレクター。法人向けの組織開発・人材開発のコンサルタントとしての活動を30年以上手掛けている。一番の強みは、アクティブラーニング(体験学習)の場・機会づくり。その強みを元に、軽井沢を起点としたライジング・フィールドの代表として、自然体験活動を通じ『子供たちの生きる力』を高めることを目的とした場・機会づくり、更には、学びの最小単位、かつ最重要単位でもある『家族』を対象とした場・機会づくりにも挑戦している。長野県キャンプ協会 理事、軽井沢観光協会 副会長、軽井沢リゾートテレワーク協会理事などを兼任。 |
〈モデレーター〉
義達 祐未(よしたつ・ゆみ)氏 YUM innovation合同会社 代表社員 地方創生・まちづくりプロモーター 高校卒業後、芸能界入り。女優としてNHK「高校講座物理」司会や、連続テレビ小説「花子とアン」をはじめ、舞台にCMに出演。ゲーム「FINAL FANTASY XV」ではヒロイン・ルナフレーナのモーションアクターと同時にDLCの開発ディレクターも務めた。 2017年、クリエイターと共にものづくりやまちづくり(地方創生)に取り組み、エンタメで社会に寄与する会社を目指し、YUM innovation合同会社を設立。官民連携による社会実験実施やポップカルチャーを活用した事業を展開。活動拠点は東京と栃木が大半で、ノマドワーカーとして全国どこでも仕事ができる環境作りをしている。栃木県 とちぎ未来大使/地方創生・まちづくりプロモーター/日本ワーケーション協会 公認コンシェルジュ/栃木県 行政改革推進委員会 委員/「#とちぎけんV25」プロデューサー |
まずは、自然体験活動・アクティブラーニングを中核にした教育事業やアウトドアリゾート事業、法人向けの人材開発・組織開発事業を手掛けている森氏から同セッションのテーマである「ウェルビーイング」と「インターナルコミュニケーション」についてインプットの時間。

「ウェルビーイングは、一般的には『身体的・精神的・社会的に良い状態にあること』をいいます。また、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義など将来にわたる持続的な幸福も含みます。インターナルコミュニケーションとは、『企業や組織内で行われる情報伝達や意思疎通』を指します。主に従業員間や部署間での連携を強化し、組織全体の目標達成や効率向上を目指します」と森氏。
そして、ここからは本題の越境学習について。森氏は自社の事例を踏まえながら越境学習において大切な心構えについて話します。
「まずは色々と試してみて感じること、考えること。ここで大切なのは考えて終わりにせずに決めること。つまり、やらないという選択肢を捨てきるということです。歩みを止めるから結果的に失敗になるのであって、失敗をプロセスと捉え、リフレクションをすることで、はじめて成功に向けた歩みを進められるのだと思います」

椎野氏は意思決定で大切にしている基準について次のようにコメント。「常に、自分の感情と向き合うこと。森さんもおっしゃっていましたが、リフレクションをして自分が優先したい感情がどこにあるのかをみつけることが重要です」
さらにご自身の経験談を交えながら「今でこそワーケーションの概念が普及してワーケーションに関することが仕事のひとつになっていますが、昔は仕事にしたいとか、仕事にしようとは考えてもいませんでした。ただ、当時から変わらず大切にしていたのは“自分自身が楽しめているか”という感情です。自分が心地よい状態であるために、どういう状態であれば良いのか、まず自分の言葉で表現をしてみる。全て言語化できるわけではないですが、言葉にすることで少しずつ自分の軸ができてくると思います」と椎野氏。
インプットが終わったところで、少し頭の体操。森氏は「では早速実践してみましょう。以下のうち、どちらの線が長いと思いますか?」と、クイズ形式で参加者に問いかけます。

これは「ミュラー・リヤー錯視」と呼ばれる有名な騙し絵です。普通に考えれば、どちらが長いかスライドを凝視をする以外に方法はないと考えがちです。
しかし、森氏は「前に出てきて、スライドに直接手を当てて長さを測っても良いんですよ。でも、大概は奇抜なアイデアが思い浮かんでも人と違うことをするのが恥ずかしいから躊躇する(笑)。ただ、今の時代は異なる地域や組織に越境して、まんまの自分を取り戻すことが、より大切になってきているのではないかと思います」と言及。
さらに、椎野氏によるとチームコミュニケーションの一環として焚き火を囲って行うオフサイトミーティングを導入する企業も増えてきたといいます。「最初は、みんなで話をしていたはずなのに、不思議なもので皆リラックスして、気が付くと1対1で話すようになるんですよね」と補足。
また、椎野氏はこのブレイクアウトセッションの主題である「ウェルビーイング」について次のような見解を述べました。
「ウェルビーイングやワーケーションは、もともと英語や英語の造語(Work + Vacation)なので、カタカナで日本に普及しています。そのため、明確なイメージをもちづらい側面もあるのではないかと思っています。ウェルビーイングは幸福と意訳されることもありますが、それだとビジネスとの結びつきが難しいと考えられる方もいらっしゃいます。Work(仕事)もPlay(遊び)もひっくるめて、自分の全てのActivity(活動)において、“自分が心地良い状態を継続する”とイメージすると良いのではないかと思っています」と椎野氏。
続けて、「もう少し踏み込んで話をすると、誰かが決めた定義に従うのではなく、自身の言葉で自分が心地良い状態を定義づけることが大事だと考えています」と話しました。

その他、クロストークで挙がった話題、まとめはこちら
・バケーションは、もともと「空にする」という意味合いをもつ言葉。軽井沢や信州など自然豊かな場所に身をおいて、無意識にかけているメンタルブロックを取り除くことが大切
・組織では多人数でのコミュニケーションが基本だが、1対1だからこそ生まれるコミュニケーションも必要
・経験したことないものは恐怖に感じる。大きなことではなく小さな越境の機会を用意することが重要
・常に自分が心地良い状態を大切に。そしてそれを言葉にすることで自分の軸ができあがる
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約3時間半にわたって行われたクリエイティブコネクト第2回目。
会場では笑い声やうなずく様子や、雑談の中から思わずハッとするキーワードが飛び出す瞬間、参加者同士が真剣な表情で意見を交わす場面がみられました。その活発なやりとりから、テーマに対する関心の高さと現場の熱気を強く感じる時間となりました。
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信州リゾートテレワークは、これからも県内外のビジネスパーソンとの多様な交差点を生み出していきたいと考えています。同サイトや公式SNSを通しての今後の発信にもご期待下さい。