コミュニケーションは言葉のやりとりだけじゃない。肩書きを手放しあるがままで五感に訴え自然環境下でおこなう研修プログラムの意義とは/「ライジング・フィールド軽井沢」森和成

事例紹介 

昨今、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方「人的資本経営」の考えが見直されています。

コロナ禍で浸透したリモートワークの流れにより、人のいるオフィスの空気感のありがたみや対面でおこなうコミュニケーションを実感された方も多いはず。

しかし、どれだけの企業やビジネスマンがコミュニケーションを正しく捉え、日々人とのやり取りをしているでしょうか。

「コミュニケーションとは、単に言葉のやり取りだけではない」とおっしゃるのは株式会社ライジング・フィールド 代表取締役の森和成さん。

同社は長野県下2地域、軽井沢町と白馬村でキャンプ場を展開しています。軽井沢町の『ライジング・フィールド軽井沢(以下、ライジング・フィールド)』では、オープン当初から企業に向けた研修プログラムやオフサイトミーティングの場づくりに取り組んできました。
(※現在、白馬村のキャンプ場は併設のホテル改築のため長期休業中)

森さんは前職のアクセンチュア株式会社から25年以上、組織開発や人材開発を専門領域とし、能動的に考え、学習する「アクティブラーニング」の手法を用いて年間100社(2023年実績)を超える企業研修プログラムに携わってきました。

プロフィール:
森和成
株式会社ライジング・フィールド 代表取締役社長。長野県キャンプ協会 理事、軽井沢観光協会 理事、軽井沢リゾートテレワーク協会 理事などを兼任。法人向けの組織開発・人材開発のコンサルタントとしての活動の他、軽井沢や白馬を起点としたライジング・フィールドの代表として、子供たちを対象に、自然体験活動を通じ『子供たちの生きる力』を高めることを理念としたアクティブラーニング(体験学習)の場・機会づくりを行っている。「和を成し、人・組織の可能性を切り拓く」をミッションとして活動中。

これまでにおこなってきた研修の実例を交えながら、コミュニケーションに主眼を置いたプログラムの特徴、焚火の効果など、オフィスの外や非日常空間に場を作ることの意味について伺いました。

自然環境でのプログラムを通して肩書きを外して自然体に

ー森さんは前職から組織開発や人材育成に注力され、現在はライジング・フィールドにてキャンプ事業と研修事業をされていますね。

毎年、春先になると様々な新入社員研修をおこないますが、多くの企業の若い社員に「言われないと動かない」「創造性が希薄化している」「答えを当てようとする」といった傾向が見てとれます。

仕事に対するそうした姿勢を改善するためには幼少期からの教育が重要だと感じ、2014年に「ライジング・フィールド」をオープンさせました。キャンプ場の運営だけでなく、アウトドアフィールドを通して子どもたちの生きる力を高める場作り、そして元々企業向けにやっていた企業研修や組織開発のプログラム提供をおこなっています。

ー室内での研修プログラムの提供だけでなく、軽井沢、白馬のアウトドアフィールドでのプログラム実績が多いですよね。会議室やオフィスで行なう研修と、オフサイトミーティングの違いはどのような部分にありますか?

なにより素の自分と向き合うことができる部分が大きいですね。会社組織に所属していると自分の立場や肩書き、役割が頭から離れない。職場にいると余計に「こうあらねば」という固定観念が邪魔をして思考がロックされてしまいますよね。自然環境で行うプログラムには、そのような思考停止状態を取っ払って自然体でいられる効果があります。

ー研修のプログラム内容はどのように決めていくのでしょうか。

企業によって提案するプログラム内容は異なり、日数も実施するアクティビティの内容も様々です。

仲間と上手にコミュニケーションを取らないと解決できないような課題をこちらから次々と提示して、研修期間のなかで解決していただくイメージです。

また、プログラムは全てが事前に作り込まれているわけではありません。企業の担当者と打ち合わせを通して研修の目的はしっかりと抑えつつ、当日に即興で内容をつくっていくことが多いんですよ。「面構えを見て決める」とよく表現するのですが、参加者のマインド、研修の目的によっても都度変わります。

ーたとえば、担当者から事前に相談された“企業やチームにおける課題”とは異なる、真の課題が見えることもあるのでしょうか。

ありますね。企業の担当者が認識している課題感も、実は見えているのが表層的な部分だけだったというケースは少なくないです。

現状の関係性を壊したくないがゆえに社員同士がお互いに踏み込めてない雰囲気があったり、みんなと会話してる中で出てくる言葉の使い方にも課題があったり。だから私たちは、たとえばチームのなかで気になる発言をする方が何に着目しているかを追うことで、組織の中にどのような課題感があるのかをリアルタイムで探り、プログラム内容に反映していきます。

コミュニケーションとは、頭の中のイメージを共有し合うこと

ー実際に研修はどのような形で行われているのでしょうか。

たとえば、ボールを使ったアクティビティがあります。ボールを自分の気持ちとみなして、二人一組でキャッチボールしてもらうのですが、その際にそれぞれに秘密の課題設定を伝えます。投げる人には「相手が取れないように力いっぱい投げて!」、受け取る人には「相手が嫌がるような取り方をして!」と、双方にぞんざいにボールを扱ってもらうんです。

次に、これを日常のコミュニケーションに置き換えて考える時間を設けます。実はこのアクティビティは、週末に実施する家族向けのコンテンツ“ファミリーアドベンチャー”で、家族間でやってもらうこともあるんですよ。家庭なら妻と夫の関係性、会社なら上司と部下の関係性。ボールの扱い方ひとつでも、普段のコミュニケーションについて考える題材になるんですよね。

ーたしかに、ただ「相手の気持ちを考えて」と言われるよりボールがあるとイメージが湧きやすいです。

研修の目的が会社の理念浸透であれ、リーダーシップ開発であれすべてのベースとなるのが人とのオープンコミュニケーションであると考えています。

『リンゴを思い浮かべてください』と言った時に、皆さんきっと赤い輪郭や、時には茶色い軸に葉っぱがついた様相を思い浮かべますよね。香りや、風味、肌触りってたいてい思い浮かばないんです。というのも、現代人って視覚情報に依存している部分が大きい。映画や動画もテロップを目で追って聞いていない人も多いのではないでしょうか。

コミュニケーションって、単に言葉のやり取りを指すと思っている方が多いかもしれませんが、実は頭の中にある一つのイメージを相手と共有しあうことが重要なんです。そのためには、頭の柔軟性や五感を使うことが必要。ですから、プログラム内では五感を使わないと解決できない課題を設けます。また、プログラムのはじめには必ずインプットの時間を設けています。

ーインプットの時間はどのような過ごし方をするのでしょうか。

研修を受けに来る方は様々なマインドでいらっしゃいますよね。「楽しそう!」と感覚的に捉えられる方もいれば「どうしてキャンプ場になんか来る必要があるんだよ!」って思う方も多いでしょう。ですから、いきなりアクティビティに入らず、このフィールドで研修を行なう意義についてロジカルな説明をすることで、参加者みんなに納得感のある状態になっていただく意図があります。

10人前後の少人数から200人規模のプログラム設計もおこなう

焚き火を通してオープンに語る環境を生み出す

ー他に、どのプログラムにも共通するアクティビティはありますか?

焚き火と食事の時間は必須ですね。

焚き火は瞑想と同じ効果を持つと言われていて「今に集中する」働きをもたらします。炎のゆらぎや、薪の爆ぜる音、鼻にツンとくる煙の匂い、冬だったら背中が少し寒いなんてこともあるでしょう。五感にうったえる要素が多いですよね。

参加者の皆さんには焚き火の持つ効果を活かし、シンプルに火を囲む時間を過ごしてもらいます。面と向かって話さず、炎を介すことで本音がポロッとこぼれ、普段話せない話が飛び出しますし、火を囲みながらお酒を飲めば、それが潤滑油となってよりオープンに語りやすくなります。

時に、テーマ設定をして焚き火をおこなうこともあります。「過去」「現在」「未来」のテーマごとに焚き火を分けて、話したいテーマの掲げられた焚き火に集い、テーマに沿った会話をしてもらいます。

ー食事の時間には、どのようなアクティビティが行われるのでしょう?

宝の地図をもとに食材を集める、少し変わったバーベキューをおこないます。あらかじめ、内容をバラバラにした食材セットに番号を振っておき、フィールドの森のなかに番号札を隠し、チーム一丸となって食材を手に入れるための番号札を探すというものです。

ーなるほど、ゲームのようで楽しそうです。

はじめに「オールハッピーなバーベキュー大会を開催しよう」と目的だけを伝えるのですが、食事って参加した人たちの素の性格がでやすく、企業ごとにまったく違った雰囲気の場になるのでおもしろいんですよ。

ある企業のバーベキューでは、肉と野菜、飲み物などバランスよくゲットできたチームもあれば、肉の塊のみをゲットできたチーム、焼きそばしかゲットできなかったチームと様々。肉と生ビールをゲットできたチームは「最高だ!」なんて言いながら全部自分たちで食べてしまい、焼きそばのみのチームはつまらなそうに食べていて。

一方でまたある企業では、「目的が『オールハッピー』だからみんなで分け合おう!」と自然と物々交換がはじまり、どのチームもバランスよく食べることができ目標を達成していましたね。

ーここまでプログラムの具体例をたくさん出していただきました。企業の皆さまは、研修を受けた効果を実感されていますか?

帰り際、皆さん顔つきが変わりますね。従来の研修のイメージを描かれている場合も多いので、大体最初は「連れてこられている」雰囲気があるのですが、帰る頃になるとすっきりした表情をされているんですよね。

ーすっきりとした表情は印象的ですね。

人それぞれ、本来持ってる能力も知恵もあるんです。ですが、やっぱり企業側が過剰な期待や役割にはめ込まれることでその力をロックしちゃってる人が多くて。都内の会議室やオフィスといった人工的な空間もその流れを助長しているんじゃないかな。僕は、自然が作り上げたこの環境だからこそ、自然体の自分を恐怖することなくさらけ出せるんじゃないかと思っています。

「自分らしく、そのまんまでいることが大切なんです」


森さんの発する言葉の数々はシンプルだけど納得感のあるものばかり。この取材を通して、根源的に人間がどうあるべきか考える機会にもなりました。

フラットな関係性を築き、肩書きを取っ払った本来の自分の姿でコミュニケーションを取ること。

研修プログラムもさることながら、オフィスから離れた大自然のフィールドで、ツンと鼻を刺す寒さや、背中に当たる木漏れ日の暖かさなど、五感で感じ取った雰囲気を仲間と共有することで得られる気づきも大きいのではないでしょうか。

※研修プログラムは開催目的の設定から相談に乗ってくださるので、検討中の方は「ライジング・フィールド」のウェブサイトをご覧の上、お問い合わせを。

株式会社ライジング・フィールド

https://www.rising-field.com/