リアルな場で人とアイデアが交差した3時間!初開催のビジネスカンファレンス「クリエイティブコネクト」レポート記事【後編】

事例紹介 

11月17日に開催された長野県産業労働部産業立地・IT振興課主催のビジネスカンファレンス「クリエイティブコネクト」。秋の軽井沢を舞台に行われた人とアイデアが交差する本イベントの様子をレポートしていきます。

イベントレポート前編では、「北陸新幹線延伸でぐっと近づく関西ー信州の多様な可能性」をテーマに行われたディスカッションをレポート。2024年に金沢から福井・敦賀まで延伸予定の北陸新幹線によって起こる変化について語られました。

●イベントレポート前編を読む

後編では、さらにテーマを細分化し、ワーケーション導入へのハードルや、仕事と事業をどう面白がるか、組織や所属の壁を超えて価値を創造していく“越境人材”についてなど、多彩な切り口から行われたセッションの内容を振り返ります。

#テレワーク・ワーケーション導入 #おもしろがり力 #越境人材
3つのブレイクアウトセッション

イベントの締めくくりとなるコンテンツとして、3つのテーマに分かれて行われたブレイクアウトセッション。三者三様な盛り上がりを見せた各セッションの様子をお伝えします。

ブレイクアウトセッション

①ワーケーション・テレワークという働き方が実現しないのはなぜ?

こちらのセッションのテーマは「ワーケーション・テレワークという働き方が実現しないのはなぜ?」。

 

〈登壇者〉

箕浦 龍一氏テレワーク・ワーケーション官民推進協議会会長元総務省職員。2021年7月に退職・独立。
総務省時代から、働き方改革、ワーケーションの普及、若手人材育成などに取り組み、退職後は、DX、組織変革、人材開発など、様々な分野において、全国各地で講演活動や自治体研修を行っている。
ワーケーションの領域では、2017年から各地の取組に参画するこの分野の第一人者。2023年2月には、観光庁が主催する「テレワーク・ワーケーション官民推進協議会」の初代会長に就任している。
岩田 佑介氏特定社会保険労務士(ワーケーション社労士)株式会社パソナにて官公庁の地方創生プロジェクトに参画した後、ライフネット生命保険株式会社の人事部長としてテレワーク、副業・兼業、ダイバーシティ戦略を統括。現在は「ワーケーション社労士」として全国各地でのワーケーションを自ら実践しながら、企業と個人のワークスタイル変革を推進している。観光庁の「企業ニーズに即したワーケーション推進に向けた実証事業」「ワーケーション推進事業」「新たな旅のスタイル促進事業」等のアドバイザーに就任。

<事例紹介>

渡邉 岳志氏(一社)信州たてしな観光協会 専務理事/ 日本ワーケーション協会認定 公認ワーケーションコンシェルジュ長年働いた広告業界から観光業へ5年前に転身。ワーケーション利用者のご要望に沿ったプランを最小のやりとり&最速でコーディネート。延べ1000名以上の企業合宿型をコーディネート。行政とタッグを組んで、ワークマシマシ、成果がっつりの開発合宿・オフサイトミーティング・アイデアソンなど、会社に稟議を通しやすいワーケーションを提案中。

2020年のコロナ禍は、社会の働き方が大きく変化するきっかけとなりました。

テレワークに踏み切った企業が多いなかで、5類移行後に再び出社が必須となった企業も数多くあります。また、社員の管理の難しさから企業側がテレワーク、ワーケーションの導入に難色を示したり、現場で働くブルーワーカー、エッセンシャルワーカーなどそもそもテレワークやワーケーションが難しい職種も存在するという現状があります。

こうしたテレワーク、ワーケーションの実態について、テレワーク・ワーケーション官民推進協議会会長の箕浦龍一氏からのインプットの時間がありました。

箕浦氏は「世界競争力年鑑(出典:三菱総合研究所)※」について触れ、1989年に全世界トップだった日本が、2022年には38位まで下がっていることに言及されました。その現状を踏まえ、企業における女性管理職の割合の少なさや組織力の低迷など、同質性、閉鎖性の高い日本の組織への危機感に言及されました。

(※)世界各国の経済状況、政府効率性、ビジネス効率性、インフラという国を支える大きな4つの軸を数値化したランキング

テレワーク、ワーケーションの考え方として「ワークの本来の意義は、価値を生み出すこと。合宿のプログラムだけでなく、地域の交流会や懇親会において人脈を広げていくのも、実は大いに価値に繋がること」とも。

またワーケーション、観光ともに、来訪数や経済効果よりも、地域の人との密度の高い交流に重点を置いた「量より質」に注目していきたいと述べられました。

企業の人事部長、人事コンサルタントを経て、現在社労士として活動する岩田佑介氏は、社労士目線で、ワーケーション導入に踏み切らない企業を後押しするための策や、上司のくどき方に言及。

ワーケーションの導入率と認知率の差を見ると、企業におけるワーケーションの認知率が66%であるのに対して、導入率は5.3%。一方でテレワークの導入率は38%と高く、テレワーク可能な職種でもワーケーションに踏み切ることができないのは「ワーケーション=遊び・旅行」という企業側の認識や、「労務的に面倒くさそう、わからない」という及び腰の姿勢が要因と考えられるのだそう。

一方で、就職活動中の学生にとって、テレワークやワーケーションの導入、副業が可能かどうかは企業選びの重要なポイントになっている、とも。

事例紹介をしてくださったのは、信州たてしな観光協会の渡邉岳志氏。

業務型・合宿型のワーケーション受け入れに特化する「立科WORK TRIP」において、令和5年度はすでに開発合宿やオフサイトミーティングで28組459名の受け入れ実績があります。

ワークスペースや交通、宿泊などの手配を一手に担うなど、利用企業の負荷を減少。一括の請求書払いになるよう調整したり、決裁の取れる企画書作成を行ったりすることで、多くの企業の受け入れに成功しました。

さらに、人材流出を食い止めたいという企業の声を吸い上げることで、社員の視野を広げる機会の創出に着目。地域事業者との交流を図り、社員のエンゲージメント向上に努めています。

その他、クロストークで上がった話題、まとめはこちら

・保育士の研修としてワーケーションを活用する例も。既存の保育士らしさを求めず、保育士×カメラ、保育士×農業などハイブリッドな職能を持つことは今後の働き方として興味深い。

・ワーケーション需要が高まり、自治体同士の競争も激化。地域経済が活性する可能性こそあるが、信州のワーケーション環境をみると、どの自治体も特色があり質も高い。

・ビジネスの基準がリモートで働くことに変化していくだろう。そのために、Wi-Fiなど仕事に必要な環境整備は個人に求められる時代に。これがデジタル時代の必須ビジネススキルになる。

ブレイクアウトセッション

②仕事を「オモシロ」がることでオモシロい事業が生まれる~地域を超えた結びつきが生み出す化学反応<長野県の事例>

こちらは「仕事を「オモシロ」がることでオモシロい事業が生まれる~地域を超えた結びつきが生み出す化学反応<長野県の事例>」がテーマのセッション。

<インスピレーショントーク>

田村 英彦氏株式会社ふろしきや 代表取締役/まとめ役京都府京都市生まれ。2017年1月より長野県千曲市在住。(妻:長野市出身)2代続くベーカリーを営む家に生まれ、店のある商店街と母方の生まれ祇園の街で幼少時代を過ごし、多様な大人に囲まれながら育つ。学生時代から文化祭、団体スポーツなどの人が力を合わせて目標に向かう瞬間を愛し、現在に至るまで一貫してマネジメントの領域で腕を磨き続けている。そして、「地域×マネジメント」の領域に挑戦するため、ふろしきやを創業。ソーシャルグッドを生み出し続ける人の関係性づくり、それを支える場づくりや人流創生のプラットフォームづくりなど、長野県を中心により楽しく前向きに地域課題や社会課題と向き合える社会づくりに関わり続けている。
松下 慶太氏関西大学社会学部教授京都大学にて博士(文学)。専門はメディア論、ソーシャル・デザイン。近年はデジタル・ノマド、ワーケーション、コワーキング・スペースなどメディア・テクノロジーによる新しい働き方・働く場所を研究。近著に『ワーケーション企画入門』(学芸出版社、2022)、『ワークスタイル・アフターコロナ』(イースト・プレス、2021)、『モバイルメディア時代の働き方』(勁草書房、 2019)など。

 <事例紹介>

柳澤 拓道氏株式会社MoSAKU 代表取締役東京大学卒業後、UR都市機構や国土交通省に勤務したのち、2020年から佐久地域を中心に”自分を主語に取り戻す”をテーマにした「超まちづくり」の活動を始める。コワーキングスペース「ワークテラス佐久」、JR中込駅構内「TonaRide」を運営。2022年末にクラフトコーラ「浅間コーラ」をリリース。浅間山麓の地域資源と音楽アートを掛け合わせた「Sakk Porano」を主宰し、チェロ演奏による音楽活動も続けている。佐久市在住。1985年、東京生まれ。

 

セッションのまとめ役となったのは、千曲市でまちづくり領域において事業構築を行う株式会社ふろしきや代表取締役の田村英彦氏。

長野県内でも有数のワーケーション先進地域である千曲市で、田村氏は数多くのワーケーションイベントを主催。コロナ禍においても万全の対策を講じ、直近4年間で20回ほどのイベントを実施した実績も。田村氏のリードにより、「仕事を面白がること」の話題が展開されていきます。

また、関西大学社会学部社会学科メディア専攻の教授である松下慶太氏は、ワークショップや学びの研究を行ってきた同志社女子大学の上田教授の「プレイフルシンキング」の概念に言及されました。

「プレイフル」とは「真剣に物事に向き合う姿勢であり、他者と協調しながら柔軟で多様な考えをドライブし、実現できそうな予感にワクワクする心の状態」のこと。

松下氏は、プレイフルの考えが非日常の環境下に身を置くワーケーションにおいても必要な要素であることをお話しくださいました。

事例紹介は、佐久市のコワーキングスペース「ワークテラス佐久」を運営する柳澤拓道氏から。

「ワークテラス佐久」の特徴は、運営スタッフが1人1個以上副業スキルを持ち、パラレルワークとして施設の運営に関わっている点。利用者はフリーランスや自営業者が7〜8割を占め、アクティブユーザーは50名ほどで、利用者となる会員と運営側とがそれぞれのスキルを発揮しながら新規プロジェクトの創出を行っています。

現場の課題感として、「ワークテラス佐久」の利用者は東京基盤の仕事をしているケースが多く、佐久地域との関わり合いをなかなか生み出せていない現状が挙げられました。

自身も移住者であり、移住前もまちづくりの文脈で活動されていた柳澤氏。主語を組織や行政といった大きな単位にせず、「私」にすることが主体性を持つ上で重要だと語ります。

そこで、JR中込駅前にて2023年8月に始動した拠点「TonaRide(トナリデ)では、「私」を主語にした活動を応援。子供も大人も関わらず企画を立ち上げ、すでに数多くのプロジェクトが生まれているのだそう。


こちらのセッションでは、登壇者だけでなく参加者にもマイクを回し、今の悩みや取り組みを聞く場面も。締めくくりとして感想共有の時間も設け、活発な雰囲気が流れていました。

その他、クロストークで上がった話題、まとめはこちら

・直感的にやりたいと思ったプロジェクトを組織関係なく個人のライフワークとしてやる重要性

・プロジェクトよりもプロダクトがある事業は地域の人に認識されやすい

・移住者にとって、草刈り、水路掃除などの地域で不可欠な協働作業への参加は地域の中に入るためのひとつのきっかけとなる

ブレイクアウトセッション

 ③新しい価値をつくる越境人材とその活かし方とは

このセッションのテーマは「新しい価値をつくる越境人材とその活かし方とは」。

<インスピレーショントーク>

留目 真伸氏SUNDRED株式会社 代表取締役投資家・経営者・起業家・イノベーター。 総合商社、戦略コンサルティング、外資系IT等において、代表取締役社長兼CEOを含む要職を歴任。 レノボ・ジャパン、NECパーソナルコンピュータ元代表取締役社長。 資生堂元チーフストラテジーオフィサー。 100個の新産業の共創を目指すSUNDREDにて「新産業共創スタジオ」を運営。「新産業共創プロセス」を通じ新産業・新事業の創出・成長加速に取り組む。
正能 茉優氏ハピキラFACTORY 代表取締役 / パーソルキャリア 「サラリーズ」事業責任者慶應義塾大学 総合政策学部卒業。在学中に創業したハピキラFACTORYの代表取締役を務める傍ら、2014年博報堂に入社。会社員としてはその後ソニーの新規事業関連部署を経て、現在はパーソルキャリアにて、HR領域における2つの新規事業の事業責任者を務める。 2018年度より現在に至るまで、内閣官房「まち・ひと・しごと創生会議」「デジタル田園都市国家構想実現会議」など、内閣官房の最年少委員を歴任。現在は上場企業を含む2社の社外取締役なども。

<事例紹介>

三枝 大祐氏一般財団法人塩尻市振興公社シニアマネージャー(塩尻市役所より派遣出向中)株式会社たのめ企画共同創業者、長野県立大学ソーシャル・イノベーション研究科2年。長野県塩尻市北小野在住の1児の父。京都大学経済学部卒業。2012年AGC株式会社へ入社し自動車ガラスの営業として新規顧客に対するバリューチェーンを確立。2017年に塩尻市役所へ転職しIターン移住。市役所入庁後は地方創生や官民連携領域で新規事業創出を手掛けながら、2022年より振興公社へ出向し組織やソーシャルビジネス事業のマネジメントを実施。

まずは留目真伸氏から、同セッションのテーマである“越境人材”についてインプットの時間。

「越境人材(インタープレナー)」について、留目氏が代表を務めるSUNDRED株式会社では以下のように定義されています。

「組織や所属の壁を越えて対話を行い、社会起点の目的を特定し、自らが動かせるアセットを動かしながら共創を通じて価値創造を行っていく、新しいタイプの自律した『社会人』のこと」
(出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000046109.html

地域住民や企業、大学など多様なステークホルダーが主体となって自分の暮らしを豊かにするためにサービスやモノを生み出す新たな価値創造の実践の場として「リビングラボ」の話題に。SUNDREDが手掛けたリビングラボの例として栃木県那須地域における「ナスコンバレー」を挙げ、共創と目的作りの必要性について言及されました。

自身の会社に加え、2社の社外取締役を兼任するなど、複数のキャリアを持つ正能茉優氏は、学生時代に立ち上げた「ハピキラFACTORY」を通して長野県小布施町の老舗栗菓子企業の商品「栗鹿ノ子」のパッケージを「もっとかわいければ売れる!」とリブランディングし販売してきました。

正能氏自身の経験、そして学生と地域企業の協業の中で感じた越境人材の強みとして「無防備に物事に突っ込んでいける力」を挙げ、一方の弱みとして、身内がいないなかですべて自分で調整や交渉を推し進める「矢面力の弱さ」を挙げられました。

また、越境人材の特徴として、「越境しているからこそ<当たり前>の感覚が違い、その差分が価値となり得るのでは」と述べました。差分を価値にするために必要なのは受け入れ側が越境人材の多様性を認めるとともに、越境人材側は自分を越境人材として客観的に捉えること(メタ認知)だろう、とも。

塩尻市でシビックイノベーション拠点「スナバ」を運営する三枝大祐氏も、越境人材のひとり。大学時代の応援団が原体験となり、情熱を持って誰かと一緒に物事を行ったり応援する魅力に気づいたそう。

事例紹介として、「スナバ」で起こったプロジェクト紹介と三枝氏の拠点である塩尻市で活動する越境人材の紹介をしていただきました。

また、大きなプロジェクトや事業への参画だけでなく、地域の消防団の活動や地域の役員や祭りへの参加なども「越境」に当てはまるのではないか、とコメント。

「越境は何か物事を大きく始めるんじゃなく、 環境に身をおいて観察をしながら他者と関係を紡いでいくこと。能動的じゃない、自分的越境みたいなものもあるのでは」とも。

その他、クロストークで上がった話題、まとめはこちら

・越境はその大小に関わらずやった方がいい。共創、価値作りだけでなく、個々人のウェルビーイングに繋がる

・越境人材の活用に関しては、環境づくりが大切

・些細な共通点(出身地、学生時代の部活など)を見出すことが地域の人と越境人材のひとつのきっかけとなり得る

・越境による共創のモデルケースはまさに今様々な地域で体系化されようとしているところ。方向性は定まってきているはず

3時間にわたって行われた本イベント。

雑談からハッとするキーワードが飛び出したり、参加者同士のやりとりが発生したりと現場の熱量の高さを感じられる時間となりました。

また、セッション時にオンラインアンケートサービス「slide」を導入することで、現場の参加者からのアイデアやディスカッションが深まり、まさに「人とアイデアが交差する。」の副題にふさわしいカンファレンスとなりました。