廃校の小学校がビジネスの拠点に!地域とつながる「いいづなコネクト」/佐久間 崇
コーディネーター紹介
長野県飯綱町にある、ふたつの廃校をリノベーションした施設「いいづなコネクト」。今回は、廃校の新たな活用方法を模索し、地域活性化に取り組む株式会社カンマッセいいづなの佐久間さんに、いいづなコネクトの特徴や今後のやりたいことについて伺いました。
廃校の小学校が人と人を結ぶ、地域の拠点に
―まずは「いいづなコネクト」の特徴について教えてください。
いいづなコネクトは、廃校になったふたつの小学校をそれぞれ地域活性の拠点としてリノベーションした施設です。旧牟礼西小学校を「いいづなコネクトWEST」、旧三水第二小学校を「いいづなコネクトEAST」と呼んでいて、それぞれコンセプトが異なります。
WESTは「自然・スポーツ・健康」がテーマで、スポーツジムやサッカー場が整備されているほか、整体サービスのテナントなどが入居しています。
一方のEASTのテーマは「食・農業・しごとの創出」。まちの特産であるリンゴを活用したシードル工場「林檎学校醸造所」やシードルの直営ショップなどがあります。
また、EASTには2022年7月、教室をリノベーションしたコワーキングスペース「ツクリバ」がオープンしました。元教室をリノベーションしたコワーキングスペース「ツクリバwork room」、元図工室と準備室をそれぞれ多目的利用ができる「ツクリバlab」「ツクリバmeeting room」とし、元図書館をリノベーションした交流スペース「ツクリバLOUNGE」を中心にしごとの創出に活用されています。loungeは平日にコミュニティマネージャーが常駐しており、ヒト・コト・モノの紹介や相談などを受けております。事前にお話しをいただければ、施設の説明や周辺のご案内を行うこともあります。
― どちらもテナントがたくさん入っているんですね。
そうですね。多様なテナントさんに入居いただいています。例えばEASTですと、「泉が丘喫茶室」の手作りタルトが大変好評です。
地域の食材で作るお惣菜のお店「泉が丘喫茶室 OKAZUYA」にも、たくさんのファンがいらっしゃいますね。ドロップインでコワーキングスペースを利用された方がランチを楽しんでいたり、長期滞在している方がパック惣菜の“おつとめ品”を購入されていたりするのもよく見かけます。
― 食が充実しているって、とってもいいですよね。土地勘がないところでお店探すのは大変ですから…。
そうですね。特に地方だと、いざ足を運んでみたら店が閉まっていたということになるとかなり悲惨ですからね。
廃校前、全校生徒が給食を食べていたランチルームは、飲食も可能な「コミュニティラウンジ」として利用されています。一般のお客さんやコワーキング利用者はもちろんですが、テナントの方も時々こちらでランチや雑談をしています。さらにツクリバLOUNGEでもテナントの方やコワーキング利用者、ツクリバの会員さんの交流が生まれています。たまたまコワーキングスペースにドロップインで来た方が、様々な場所で地元の方と交流する…という姿も目にしますよ。
幅広いビジネスパーソンが利用する、唯一無二なワークスペース
―学校って足を踏み入れただけで、なんだか童心に帰ったような気持ちになりますね。
コワーキングスペースの利用者は、地元の方はもちろん、首都圏など他地域から来た方など様々です。
この学校で育った方ではないのに、「元教室だからすごく懐かしい気持ちで仕事できた」とおっしゃる方もいました。
― 都会で育ったはずの方もシンパシーを感じられる場所って珍しいですよね。
ええ、そうですよね。
実は印象深いエピソードがあるんです。
以前、校庭で遊んでいる地元の子達があまりにうるさくて注意をしたことがありました。「お仕事している人がいるからもう少し静かにしてね」って。でもその後、東京から来たコワーキングスペース利用者さんが「そんなに怒らないであげてよ」「静かに仕事したいんだったら静かなコワーキングスペースに行くよ。ここはこういう環境音含めて好きだから来ているんだよ」と話してくださったんです。
そうした気持ちで来てくださっているのかと、嬉しくてジーンとしてしまいましたね。
― ところで、こちらに訪れるビジネスパーソンはどういう方が多いのでしょうか。
シーズンによって違うんですが、多いのはやっぱりウインタースポーツを楽しむ方ですね。
冬の間、長野に長期滞在をしたいけれども、いわゆる観光地やリゾート地とはちょっと違うところでワークしたいから、飯綱を選んだという声も耳にします。
― では、そうしたリモートワークに慣れている方の利用が多いのですか。
去年まではそういった方が多かったんですが、今年は遠隔地でのワーケーションを初めて試しているというかたもよく見かけます。リモートワークできる方が全体的に増えてきているからかなと思っています。
― 利用者さんの業種の特徴などはありますか。
どの地域もそうかもしれないですが、フリーランスの方やシステム・エンジニア系の方が特に多いですね。
あと最近増えてきたのは、遠隔でサービスサポートをされている方。電話で営業をしたり、カスタマーサポートをしたりするようなお仕事の方も多い印象です。
―いいづなコネクトには企業のサテライトオフィスもあるそうですね。なぜいいづなコネクトにオフィスを構えられたのでしょうか。
はい。一例として、東京の大手企業のICT関連部署のICTに関する部署が、いいづなコネクトをサテライトオフィスとして利用しています。
東京のオフィスでは得られない情報に触れたい、地域で交流したいという想いや、地域の困りごとから着想を得てプロダクトアウトすることを目指し、この場にサテライトオフィスを構えることにしたそうです。
― イチから拠点を作るより、いいづなコネクトのような場を利用すれば、サテライトオフィスを構えるハードルはより下がりそうですね。
私自身も移住者なので、拠点を地方に移す難しさはよくわかります。
その地域の特性やつながり、決まりごとなどを事前にリサーチするのって本当に大変です。さらに建物を借りたり建てたり管理したり…。でも、こういった施設にテナント入居することで管理のわずらわしさなどが軽くなるでしょうし、地域の水に慣れるのも楽だと思いますよ。
さらに、私たちの会社は施設を管理するだけでなく、地域のコミュニティづくり・場づくりをしています。いいづなコネクトという名の通り、飯綱町とつながるサポートもできるのも大きいですよね。
― コミュニティ運営で工夫されていることはありますか?
例えば、「ツクリバランチ」と題して、定期的にランチミーティングを開催しています。
ツクリバの会員さんだけでなく、テナントの方や施設を訪れた一般の方、誰でもご飯を持ってくれば参加できるというもので、ご飯食べながらいろいろな方との交流が図れる場となっています。
気がついたら、ランチをきっかけに東京から来た方が地元のリンゴの農家さんと仲良くなっている姿を見かけて…、そのときはなんだか嬉しかったですね。
― いいづなコネクト自体が地域のみなさんに受け入れられているということなのでしょうね。
やっとここまで来られたという感じではありますね。
やっぱり地域の方にとって、自分の母校が廃校になったっていう事実自体、相当ショックなはず。だから、こう使われたくないとかこう使われたいとか、いろんな思いはあったと思うんです。
どういうふうに地域と外部の人を結びつけるかを考え、その結果を見たうえで評価していただいて。ようやく最近ぐっと距離が近づいたような気がします。
―ちなみに、いいづなコネクトを管理されている「株式会社カンマッセいいづな」さんですが、カンマッセとはどういう意味ですか。
カンマッセは長野県の北信地域の方言で、かきまぜるという意味です。地元の方と移住者、古きと新しきを混ぜ合わせて、新しい文化を作っていくという想いを込めています。
当社には移住者もいますし、地元出身の人もいます。こうした地域資源を活かす事業を展開するうえでは、地元の目線だけ、移住者の目線だけではだめだと思うんです。地域をリスペクトしたうえで、未来を見据えて新たなチャレンジをしていけたらと考えています。
―最後に、これからやりたいことがあれば教えてください。
今年は「フィーカ」をやりたいんです。
フィーカは北欧の習慣なのですが、午前10時と午後3時にコーヒーと甘いお菓子を持ち寄って、30分くらい語らう時間のことを言うらしいんです。いいづなコネクトでもそんな文化をつくれたらと考えています。
―それはとっても素敵ですね。
実はこの発想、僕がこちらに移住してからできた友人のものなのですよ(笑)
他の地域から来た方、首都圏から来た方と地元の方々との交流の場としても、フィーカってすごくいいと思いまして。
「東京の企業との交流会をします」だと地元の方も身構えてしまいがちですが、「フィーカだよ」っていえば参加しやすい気がしませんか。
それで、たまたま隣だった人と話したら、打ち解けて意外と話が合って、自然とつながる…そんなきっかけをいっぱいつくりたいなと。自分も移住してきてそういった出会いや経験をしてきました。フィーカを通じて、この施設に関わる方たちにも同じように素敵な繋がりを作っていただきたい。
そういった仕掛けづくりはこれからもやっていきたいですね。
いいづなコネクト
https://iizuna.jp/