新しいことがここから生まれる。地域との関わりしろをつなぐ 「ワークテラス佐久」/柳澤 拓道

コーディネーター紹介 

東京駅から約90分でアクセス可能な長野県佐久市のコワーキングスペース、「ワークテラス佐久」。“地域の関わりしろ”に光を当て、これまでにないコラボレーションや協業も次々生まれているコワーキングスペースとしても注目されています。今回は、まちづくりコーディネーターの柳澤さんに、施設の詳細や地域でのプロジェクトに挑む背景について伺いました。

他者と出会い、繋がり、新しい価値観と交わりあう。地域に根ざしたスペースづくりの背景にあるもの

―ワークテラス佐久は、 開放感があって遊び心のあるインテリアや地域マップが貼り出されているなど、室内の設計には様々なこだわりを感じます。
そうですね。1階にはテントがあったり人工芝があったりと、アウトドア感のある内観となっています。

地元の人たちはもちろん、地域と都市部を行き交う人たちが出会い、繋がり、新しい価値観と交わることをコンセプトとしていたので、「長野に来た」という実感や非日常感が出るようなインテリアをセレクトしています。

また、館内には自動販売機がありません。地元のコーヒー店のドリップコーヒーや、ワークテラス佐久のメンバーによるオリジナルパッケージの紅茶をご用意し、飲み物もなるべく地域のものを手に取っていただけるようにしています。

―それは素敵ですね。 そもそもワークテラス佐久はどのようなきっかけで設立されたのですか。
この場所は、元々「佐久情報センター」という、市民がパソコンに親しめるようにとつくられた施設だったんです。しかし、一人一台パソコンを持つ時代となったことから役目を終え、新たにコワーキングスペースとして整備をすることになりました。

ワークテラス佐久として2020年4月にオープンしたものの、時代は コロナ禍真っ只中。ほとんどプロモーションはできていないのですが、訪れた人が「ワークテラスよかった」と感想をSNSでシェアしてくれ、それを見た人が訪れてくださって…と、本当に人の繋がりでここまでやってきたという感じです。

― そうなのですね。たとえば、利用者さんにはどのような点が好評なのでしょうか。
仕事が快適にできるのはもちろんなのですが、それだけではなく地域でいろいろなチャレンジしている人が集まっていたり、プロジェクトをやっていたりする点を面白がって来てくださっていますね。

― 地域の中でのプロジェクトの創出はワークテラスの特徴でもありますよね。ぜひもっと詳しく教えてください。
最近ですと、地元の酒蔵や地域の人たち、クリエイターなどと協働しながら、クラフトジン“YOHAKHU”や、クラフトコーラ“浅間コーラ”など、佐久ならではのプロダクトをつくりました。

他にも、ワークテラス佐久では「地域複業」をテーマにしていて。「地域で何かチャレンジしたい」という気持ちを全力で応援しています。
たとえば農業をパラレルキャリアのひとつとしてやってみるプロジェクトや、ローカル複業ラボという地域での複業を小さく立ち上げていくプロジェクトが始まっていますね。

関わりかたとしては、僕ら自身がプロジェクトを立ち上げることもありますし、やりたいという想いがある人をサポートするような役割をすることもあります。

―なぜ 「地域複業」に取り組もうと思ったのでしょうか。
移住者やワーケーションで佐久に訪れる人は、都心部での仕事をお持ちの方が多いんです。けれど、1割でも2割でも地域のことに関わることができれば、佐久にいる意味づけがより増すはずだと思うんです。

地域側にとっても、これまでにないスキルやアイデアを掛け合わせて、新しい事業やプロジェクトが生まれることは様々な相乗効果が期待でき、地域にとっても幸せなこと。

だからお互いWin-Winになるのではないか、というのが取り組む背景としてはありますね。

―ワークテラス佐久にワーケーションで訪れるのはどのような方が多いのですか?
企業のオフサイトミーティング・ワーケーションというよりも、個人でお越しになる方が多い印象です。
ワーケーションの目的としては、佐久でちょっと気分を変えて自分の仕事をやりたいとか、自分自身に向き合ったり将来のこと考えたりする時間をつくるために佐久に来たといった声をよく耳にします。

あと、僕らは定期的に合宿形式のワークショップを開催しているので、それを目指して来てくれる方もいますね。

―合宿イベントも開催されているんですね!詳しく教えてください。
「ローカルシフト」をテーマに地域に根を下ろしてみたい方、移住や2拠点に興味がある方のための合宿や、これから自分自身がどう働くかを見つめ直す合宿を開催してきました。

志を同じくする部分があれば、僕らと一緒に活動したり、その人が立ち上げるプロジェクトを応援したりというようなことに繋がればいいなと思い、取り組んでいるところです。

都市開発プロジェクト担当者から、佐久でローカルシフト実践者へと転身

― 話を移して、柳澤さんご自身についてもお伺いをしたいと思います。どのようなキャリアを経て、いまのお仕事をされているのですか?
僕は大学卒業してからの12年間、UR都市機構の都市開発を担当する部門で、新宿や大手町、渋谷など、街の再開発プロジェクトにずっと従事していました。

その後、佐久に移住して、株式会社MoSAKUという会社を立ち上げ、現在はワークテラス佐久でまちづくりコーディネーターとして運営に携わるほか、パラレルワークで様々な仕事をやっています。

― 佐久に移住されたのはいつごろですか?
2020年の6月ですね。移住のきっかけとしては、豊かな環境のなかで子育てしたかったのと、僕が地域でより人の顔が見える範囲で仕事をしたいという思いがうまれたのが大きかったです。

はじめは軽井沢が候補だったのですが、縁に恵まれてお隣の佐久市へ移住しました。実は母方の祖父母が南佐久郡出身で、元々佐久地域にはゆかりがあったんです。祖父母は戦後に上京したため、実家もないし、親戚もいないのですが、幼いころに何度か遊びに来たり、佐久のものを取り寄せることがあったりと、馴染みがある場所でした。

― いわゆる「孫ターン」として、祖父母が住んでいたまちへ移り住んでみての感想はいかがですか。
僕は自身のルーツのひとつに佐久があると感じていて。いろいろな考え方があるとは思いますが、地域の活動をする中で僕としてはやはりどこかで自分のルーツがここだからこそ頑張れている気がしています。

あと、地域のお年寄りとお話をしていると、みなさん祖父と同じような話し方をされているんですよね。方言の影響だと思うんですが、なんだか地域の方と話していると、亡くなった祖父を思い出し、親しみが湧いてきます。

―柳澤さんからみて、佐久はどんなエリアだと思われますか?
佐久市街地は盆地で、古くから「佐久平」と呼ばれていましたが、土地自体に開放感があるからか、オープンな気質があるように思います。新しいことをやるのもウェルカムですし。

また、佐久市は近年移住先としても人気なのですが、先輩移住者が新たに移住した人との架け橋となって、地域と繋げてくれるんですよね。そうした面でも、何かはじめたいときやチャレンジしやすいときにはやりやすい街なのかなと思います。

あとは基本的に天気がよくて快晴が多いので、気分的にもポジティブになれるところもいいなって感じていますね(笑)

― ワークテラス佐久の運営をされている中でテンションが上がる瞬間はどんなときですか?
やっぱり新しいプロジェクトが立ち上がったりすると嬉しいですよね。
特に会員さんや僕らの仲間が自分の意思で何か立ち上げようとしているとき、この施設をやっていてよかったなって感じます。

僕自身もワークテラス佐久の運営をはじめ、様々なプロジェクトに取り組むなかで、たくさんの地域の方や先輩移住者にお世話になってきたので、少しでも恩返しができているといいなとも思います。

―今後取り組みたいことを教えてください。
佐久市は30・40代の移住者が増えているものの、10代・20代の人口はやはり少ないんですよね。なので、若い世代にもこういう働き方があるんだとか、こういうふうに働けるんだと知ってほしいなと思っています。

こうやってワークテラス佐久のまわりでもかっこいいオトナはたくさんいるのに、そうした活動知らずにただ「地元はダサい」と思われてしまうのは悲しいなと。
若い世代にも僕らの活動を知ってもらいたいですし、若い世代もどんどんチャレンジしやすい環境づくりを今後できたらいいなと考えています。

―これからの活動にも目が離せませんね。ますますのご活躍、楽しみにしています。

ワークテラス佐久
https://www.3saku.com/