多種多様なプレイヤーとつながり、新しいプロジェクトが生まれる町「たつのWORK TRIP」/野澤 隆生・矢田 愛香 

コーディネーター紹介 

多様なプレイヤーが集い、新たなプロジェクトが次々と誕生していると話題の辰野町。実は先進的なワーケーションの町でもありました。今回は、辰野町役場 産業振興課の野澤さん、辰野町の地域おこし協力隊 矢田さんに、地域に人が集う理由やワーケーションプロジェクト「たつのWORK TRIP」について伺いました。

ゼロイチが楽しい。フィールドに可能性を感じる町

― 辰野町には全国から個性的なクリエイター、アーティスト、ビジネスパーソンなど多様なプレイヤーが集まると伺いました。その関係性はどのようにしてはじまったのでしょうか。
野澤: 人が人を呼んで…という感じですね。 町外から来た人と町の人が友達になって。辰野をいいなと思った人は、次に来るとき友達を連れてきて、迎える側になってくれるんですよ。友達が友達を呼ぶ連鎖が生まれ、ちょっとずつ辰野を訪れる人が増えていったという感じでした。

またそうやって辰野を訪れる人たちは、どこでも仕事ができる個人事業主やテレワークの人が多いんです。辰野に遊びに来がてら、しばらく滞在して自分の仕事もされていました。

当時ワーケーションという言葉はなかったですが、そうやって仕事と滞在が溶け合う過ごし方というのは、辰野ではずいぶん前からはじまっていたんです。むしろ最近になって、しっかり企業や個人の方の受け入れができるよう、プロジェクト化して「たつのWORK TRIP」という名前を付けました。

― 辰野町に集まる人の傾向や特徴はあるのでしょうか。
野澤: 一つは、ゼロイチが好きなことですね。「何もないけど、何でもできる」という辰野の環境に惹かれるのは、やっぱりクリエイティブな人。あるものを消費するんじゃなくて、自ら作り出すのが楽しい人にとっては、ネットワークも空き店舗もあるし、みんな協力してくれるので何でもできます。

地元の人が見たら「こんなところ何もないし、可能性がない」って言うんですよ。でも、外から辰野に来てくれるのは、このフィールドに可能性を感じて「こんなことできるかもしれない」と妄想できる人。そして「可能性しかない」っていう人が増えると、取り組みを見た人がまた可能性を感じて、辰野に来るっていう連鎖反応が起きるんです。

もう一つは本質的な幸せを求めている人です。
「たくさん稼いでいるはずなのに、終電まで働いてタクシーで帰ったり、高い家賃を払ったりしていたら全然手元にお金が残ってない。」「いい大学や大企業に入って成功してるはずなのに、可処分時間も所得も少ない、家も狭い。」

そうしたことに気づいて、自分の幸せを本質的に見極めよう、豊かな余白のあるところで夢を叶えようという人たちが増えていて、価値観の合う地域へ向かう流れになっているようです。なので、いわゆる高学歴な学生や大企業に勤めていて、結果的に辰野にたどり着いた方も多いと思います。

株式会社dot「Airbnbの宿で体験!たつのWORKTRIP補助金事業報告書」より

― 全国から来た人も地域に溶け込めるのはなぜでしょう。
野澤: 元々辰野町は、いろんな村が合併してうまれた町。かつては谷ごとに村があったので、それぞれ文化が違うし、町の中でも多様性があるんですよね。外から人をよく受け入れてきた地域もあれば、そんなに関心がない地域もありますし、いろいろです。

でも、地域ごとにキーマンがいて、その人と私たち町のコーディネーターがつながっているんです。辰野の一番南でも北でも、町内全域に知り合いがいます。
会わせたい人がいたら、すぐに「紹介したい人が来たんだけど、今からちょっと行っていい?」って言える関係なのは、小さい自治体ならではかもしれないですね。

― 地域の人とすぐに会える関係性というのはすごいですね。
野澤: まさに「人」が大事だと思うんですよね。逆に言えば、立派な施設はないし、そこで勝負したらうちは絶対に負けます。

でも、移住してもしなくても、その人に合った形で接してくれればいいよって姿勢でいるので、行政と民間という立場を越えて、「人と人」っていう強い繋がりができるんです。

あと、持続可能な地域のためには、受動的な100人よりも能動的な1人が来てくれたほうが、また次の能動的な1人を呼べると思っていて。だれもかれもと量を求めるのではなく、能動的な1人が来てくれたときに家族のように迎えられることが大切だと感じています。

― 野澤さん自身は辰野町をどういった町だと感じていますか。
野澤: 辰野って「こういう町です」って言わないんです。外から来た人たちがカラフルな色を勝手につけてくれるから。

あと、落ちきっているからこそおもしろいっていう部分はあると思います。(笑)
本当に困っているので基本的に何をやってもウェルカムなんですよね。落ちきっているところは、何でもできるから、いま一番の最先端、ブルーオーシャンなのではないでしょうか。

ローカルのポテンシャルを感じられる、たつのWORK TRIPという選択

― 例えばオフサイトミーティングやワーケーションで辰野町へ来た方は、まずどのような場所を尋ねるべきでしょうか。
野澤: 元々誰かと繋がりがあれば、その人のもとを尋ねるのが一番いいと思います。

もし繋がりが全くないという人は、Airbnbの宿に泊まるのがおすすめですね。Airbnbのホストさん(宿の運営者)が町内でのハブとなっていて、興味にあわせて場所や人を紹介してくれる役目を担っているんです。

古民家ゆいまーる

― なるほど。ではホストの人に教えてもらいながら、町にでて実際に聞いて体験してみるのがよさそうですね。
野澤: そうですね。辰野に来た人ってどんどん起業したり、新しいことを始めたりするんです。元々全然そんなこと考えてなくても、辰野にいるといろいろなことをやっている先輩がたくさんいるから、自分にもできるかもと思えるみたいで。

そうやって辰野でいろいろ興した人に話を聞くと、みんな目を輝かして喋ってくれるんですよね。 「お金もないけど、やりたくて、こんなこと始めちゃいました」って。

なので、企業としてワーケーションに来た場合にも、自然の中で仕事するだけじゃなくて、辰野で進行しているプロジェクトに視察に来て、メンバーと話すだけでも刺激になると思います。いい意味でカルチャーショックになるというか。

実際に会社員の方も、辰野を訪れたことで、起業家的な思考で取り組んだり、新しいことを始めようと思ったりといった意欲に繋がったという話も聞いています。

かやぶきの館

― ところで矢田さんは地域おこし協力隊をされていますが、なぜ辰野町に?
矢田: 私の場合、地域おこし協力隊を検討するまで辰野町との接点は全くありませんでした。
どの地域の協力隊になろうか悩んでいたとき、辰野町の協力隊の方と話してみたら、自分たちで何かをしようというパワーをもった人たちがたくさんいらっしゃって。自分もこの町に来たら何かできるんじゃないか、一緒にやったらおもしろそうだな、と感じたんです。なんだか発するエネルギーが違う…というか。

― 熱量が違ったんですね。そうした出会いは大切ですよね。
矢田: そうですね、以前の職場では、同僚と話しても仕事でも、ワクワクすることって特になかったような気がします。でも、辰野だと、同世代の人たちが「自分がこうしていきたい」とか「この町をこうしていきたい」とか、未来をすごく考えて行動しているんです。
そういう人たちに出会えたことが、すごく自分にとってプラスだなと思えましたね。

― 矢田さんは、現在辰野のワーケーションの取り組み「たつのWORK TRIP」では、どのような担当をされているんですか。
矢田: 辰野でのワーケーションを希望している企業のニーズに応じ、施設やサービスをオーダーメイドでご提案し、滞在全般のプランニングを担当しています。

それから町へお越しになったときには、アテンドもさせていただいています。この間も辰野を訪れた企業の方々と一緒に山を登りました!

― 都市部の方が地域に溶け込めるようなイベント企画も実施されたそうですね。
矢田: はい、「mix Family Camp」という、都心部に住んでいるご家族をターゲットに、自然や地域と触れ合いながら過ごすキャンプを企画しました。
自然豊かな辰野で思う存分遊んで過ごしてもらったり、ハロウィーンの時期だったことから地域のおじいちゃんおばあちゃんの家を一緒にまわって、お菓子をもらう企画をやったりして。参加者さんには大好評でした。

親子ワーケーションもいずれ企画できたらいいなと思っているので、その一歩になったらいいなと思っています。

― さまざまな人がワーケーションを通じて地域とつながる、たつのWORK TRIP。今後の展開も楽しみです!

たつのWORK TRIP
https://www.tatsuno-job.jp/worktrip/