“新たな働き方”を提案してきた「森のオフィス」の次なる挑戦/津田 賀央

コーディネーター紹介 

「富士見 森のオフィス」(以下森のオフィス)は、八ヶ岳の大自然に囲まれた環境のなかにあるコワーキングスペースです。これからの新しい働き方を見据え、2015年に富士見町へ移住したRoute Design合同会社の津田さんは、森のオフィスの開業に尽力した一人。富士見町と横浜の2拠点生活を実践したのち、現在は森のオフィスの運営をはじめとして、地域商品の企画開発やブランドのクリエイティブディレクションなど、様々なプロジェクトに携わっています。今回は津田さんに森のオフィスの現状や今後目指していることについて伺いました。

オープンから7年、森のオフィス運営のいま

―津田さんが富士見町と協働して森のオフィスを立ち上げて7年。オープン当初に比べ、地域の中での立ち位置に変化はありますか。

そうですね。当初は「コワーキングスペースって何?」と見向きもされなかったんですが、段々理解してもらえるようになりました。最近は「一緒に何かやろうよ」「森のオフィスに相談すれば何とかなるかもしれない」といった声や、「森のオフィスがあるから、富士見に面白い移住者が増えたよね」と言ってもらえるようにもなって。

この地域に新しい刺激や風や情報、人流を呼び込む場所にはなっているかなと自負はしていて、引き続きその期待に応えていきたいと思っています。

―森のオフィスは、地域とのプロジェクトを数多く行なっているイメージがあります。

コワーキングスペースの軸は「コ・ワーキング」。すなわち「共に働く文化」だと、僕は解釈していて。

共に働く上で、悩み事や相談事が出てきたら支え合う。またそうした声を出やすくするのが、場を運営している人たちの役割だと思うんですよね。僕たちはそれをただ全うしているだけ。

誰かと話をしたり仲良くなったりすると、必ずその人なりのやりたいことや悩みが出てきます。それを親身になって聞いてあげて、解決策を繋がりのなかから探していく。森のオフィスの運営メンバーも、それぞれの人的資本を活用して解決することがやるべきことだと思っているので、誰かの「やりたい」や「困った」がプロジェクトへと繋がっていくんです。

―地道なコミュニケーションの中でプロジェクトの芽を育てているのですね。これまでどのくらいプロジェクトを?

累計はおそらく150本以上になります。

―それが実施できるのも、運営メンバーさんをはじめ、様々な職種や異なる働き方を実践する人が訪れて、コミュニティーが形成されているからでしょうね。

そうですね。僕や運営メンバーのマインドや目指すものと感覚がどこかしら合うというか、似ている人たちが集まっているように感じます。

―具体的にはどんな人が集まっていると思われますか。

基本的にはこの自然豊かな場所で自分の生活をきちんと築いていきたいという人ですかね。

その中で、交流の中から新しいことを見出したり自分が貢献できる部分を探したりしながら、自分なりに幸せな生活がつくれたらって思っている人が多いんじゃないかなと。

働き方を提案し続ける森のオフィスが挑む、これからの働き方とは?

―話は変わりますが、2022年7月にはサステナブルな働き方を目指す企業やオフィス運営者向けの研修プログラムを発表されましたね。

はい。森のオフィスでは自然環境に対して責任ある意識と行動を広めるプロジェクト「GREEN COMMUNITY」を2020年にはじめました。その一環として、これまで森のオフィスが取り組んできたオフィス環境におけるサステナブル施策について体験を通して学べる、一泊二日の研修プログラムの提供を開始したんです。

「GREEN COMMUNITY」 がスタートしたきっかけを教えてください。

森のオフィスは2015年にオープンして、リモートワークや2拠点居住、プロジェクト型のワークスタイルなど、自分たちも実践しながら新しい働き方をずっと提案してきました。

オープンから5年経った2020年、僕らとしては、もうリモートワークの実践については、ある程度達成感があるよねっていう結論に至って。次の5年を見据えたとき、八ヶ岳の麓に住む者として「自然に負荷をかけない責任ある働き方」が、これからの働き方なのではないかと思い至りました。

森のオフィスはそうした新たな働き方を啓蒙していける場。まずは自分たちから環境に負荷をかけない運営をやっていこうと、ゴミの削減や分別などに取り組むことにしました。

そのうち、僕たちの実践に興味を持った都心のコワーキングスペースの方が研修に訪れるようにもなって。サステナブルな働き方を目指す企業やオフィス運営者を増やしていきたいという思いから、運営支援を積極的に進めることにしました。


―なるほど。そうした森のオフィスのノウハウを合宿型の研修のプログラムとしても体験できるようになったのが「GREEN COMMUNITYワーケーション」なんですね。

そうですね。今回リリースした研修プログラムでは、森のオフィスがサステナブル化するために試行錯誤した様子を見てもらったり、どう実践していくかを一緒にブレストしたりといった一泊二日の合宿型コンテンツを用意しています。

―合宿といえば、森のオフィスにはLivingという宿泊棟も隣接されていますね。

森のオフィス Livingは、4つの部屋と共有リビングを備えた宿泊棟です。富士見町への移住を検討する人や自然豊かな場所で仕事に打ち込みたいチームの合宿にご利用いただいています。

企業でのワーケーションとしてお使いの場合は、Livingを一棟貸し切りにされることが多いですね。部署のメンバーやマネジメント層などで集まって、ブレストしたり集中して議論したりする場として活用されています。

サステナブルな働き方を実践できる場にしたい

―改めて、津田さんからみて富士見はどんな町だと思われますか?

受け入れ幅が広いエリアですよね。本当に八ヶ岳の裾野の広さと同じぐらい、受け入れ幅が広い。

居住エリアも移住者と地元民がきっぱりわかれているのではなく、なんとなくブレンドされていることが閉塞感のない地域性をつくっているのかなとも思います。

あと富士見町の人口は今1万4000人。新しいことを始めるとか、人と繋がり合うという意味では、程よい人口規模です。自分の好奇心をちゃんと持っている人なら、数珠繋ぎに人と繋がれるところも良さですね。

―森のオフィスの運営をされている中でテンションが上がる瞬間はどんなときですか?

なんらかの形で僕たちがやっていることが誰かに影響を与えられたのであればすごくいいなと思うので、「森のオフィスがあったからできた」という言葉をかけてもらえるとすごく嬉しいですね。

例えば、想定し得なかった利用者と利用者が繋がって仲良くなって、「一緒にプロジェクト始めることになりました」って聞くと刺激を受けますね。

―今後取り組みたいことを教えてください。

これからでいうと、GREEN COMMUNITYをどんどん進めていきたいです。森のオフィスにいるだけで自分の生活もサステナブルに変えられる、というようにできたらなと。

あと、できれば森のオフィスの電源を全て自家発電に提供できるようにしたいです。海外ではいくつかそうしたスペースもあったりするんですよ。いまはある程度クリーンなエネルギーを買っていますが、今後パソコンの充電は自家発電で動いているというような状態にできたらと思っています。

―“働き方改革”が叫ばれる前から、新たな働き方を提案してきた森のオフィス。今後も働き方の発信地として目が離せません。

森のオフィスは、ありがたいことにリモートワークできる場所としては、ある程度認識いただいています。さらにもっと先の働き方をつくるという点では、やはりサステナブルな働き方の実践に注力していくつもりです。

サステナブルな働き方をつくっていける場所、人と人とが繋がってサステナブルを意識しながら働ける場所になるといいなと思っています。

公式サイト

https://www.morino-office.com/