多くの人が行き交う入口「ちくまワーケーションウェルカムデイズ」/田村英彦

コーディネーター紹介 

ワーケーションイベントをきっかけに参加者と地元住民の間に交流がうまれ、さまざまなプロジェクトがうまれている千曲市。信州千曲観光局とともに、ワーケーション体験イベントの企画運営やコーディネートを行なう株式会社ふろしきや 代表取締役/まとめ役の田村英彦さんに千曲市の取り組みについて伺いました。

「新しいまちの使い方」という発想からうまれたワーケーション

株式会社ふろしきやの田村さん(右)

― ご経歴について教えてください。

学生時代からチームスポーツに取り組むなかで、「みんなのパフォーマンスをどう上げていくか」「人と人が協力して成し遂げていくこと」、いわゆるチームビルディングに醍醐味を感じていたんです。

そうした興味をビジネスの世界でもと思い、新卒で入ったのが働き方やオフィス空間に関するプロジェクトマネジメントをする会社です。10年ほど勤めたのち独立し、「株式会社ふろしきや」を立ち上げました。

その後、子どもの育つ環境を考え、家族とともに妻の実家がある長野県に移住することに。長野に来てみると、本当にいろんな出会いがあって。さらに時期的にも台風被害やコロナ禍など、人々が困難に立ち向かう姿も目にしました。

まずは”自分の見えている範囲”から困っている人のためにも出来ることをやりたいと思い、いまは千曲市を拠点に事業をしています。

― “ふろしき”ってネーミング、素敵ですよね

“風呂敷”のように構想・プロジェクトを「ひろげ」「まとめる」。そんな「まとめ役」を担っていきたいと思って名付けました。

あと、「それぞれのものをそれぞれの形のまま包む」っていうのが風呂敷のいいところだと思っていて。誰かにしわ寄せがいくとかムリをするのではなくて、なるべくそのままそれらしく、自分らしく包みたいっていう意味も込めているんです。

― 千曲市でワーケーションのコーディネートをはじめたきっかけは?

公共的事業との関わりは、中心市街地活性化のアドバイザーとしてご相談いただいたのがスタートです。
美肌の湯として知られる戸倉上山田温泉、善光寺平を一望できる姨捨、伝統的な建築物…など、千曲市はいろんな魅力がコンパクトにぎゅっとつまっている。でも空き店舗や空き旅館の増加や観光資源の活用方法などの課題もあります。

そんななか「信州リゾートテレワーク」という長野県の取り組みがはじまり、千曲市としてもそれに絡めた事業を官民協働で作りたいという話し合いがありました。千曲市では、あえて「ワーケーション」というコンセプトでやることを決め、2019年に城と寺で働く「城ワーク・寺ワーク」ができるワーケーションの体験イベントを開催したのです。

(2019年10月開催・「第1回 ワーケーション体験会)

それから新型コロナウイルス感染防止に伴う移動・制限が強まる社会情勢の中、人の交わりや学び合いを止め感染症対策を行いながら、「ワーケーション・ウェルカムデイズ」というイベントを約3か月に1度のペースで開催してきました。イベント期間中は毎回異なるテーマを設け、さまざまなコンテンツ(企画)を用意しています。2022年7月現在で計13回実施し、延べ約400名以上の方に参加いただきました。

(2022年8月開催・第13回「真夏のワーケーションシップ」プログラム例)

千曲市ワーケーションを体感できるウェルカムデイズ

― 千曲市では、ワーケーション中のワークショップや交流の時間にも注力されているイメージがあります。

そうですね。体験イベント「ワーケーション・ウェルカムデイズ(以下イベント)」の参加者にアンケートを取ったところ、「自分が働いていくなかで加えたい要素」を聞いてみると、一番多かったのは「出会い」や「セレンディピティ」、そして「学び」だったんです。

あと企業をコーディネートする場合も、社内でのコミュニケーションをしっかり取りたいとか、同じ業種同士が情報交換する場をワーケーションの要素を取り入れながらやりたいという声もありますね。

ワーケーションなので、もちろんそれぞれ目の前の仕事もあるんですが、いつもはダラダラと8時間やっている仕事でも、絶景の古民家など非日常空間で行うことで集中力が上がり、4時間ぐらいで終わる。そうすると心と時間の余裕が出てくるので、コミュニケーションや学びに通ずるコンテンツに参加することで、モチベーションが向上して、また仕事も前向きに取り組める…。そんなサイクルを目指しています。

「この時間よかったな」って感じて帰ってほしいんです。だから、仕事を早く終わらせたくなるような、この地でしか体験ができないコンテンツを毎回用意しています。

― イベントでは腸活、トレインワーケーション、瞑想など…本当にいろいろなコンテンツを実施されてきてますよね

そうですね。イベントのほうは約3か月に1度のペースで開催しているんですが、コンテンツはとっても増えていて、把握しきれないくらいになってきました(笑)

もともとは、私と千曲市、信州千曲観光局で協働して企画をしてきたんですが、今は過去のイベント参加者をふくむ20人ぐらいのプロジェクトチームになっています。「届けたい人の顔が見えて、面白そうなコンテンツ、何でもやる!」という感じになっていて。毎回、趣向を凝らして企画をしています。

実は、コンテンツ目当てに、イベントに地元の人が参加するといった逆バージョンもあるんですよ。

― 地元の方も参加されるっていいですね!

たとえば、以前腸活のコンテンツに地元旅館の女将さんたちが参加されて、イベント終了後も「腸活の商品をつくろう」とか「ふるさと納税の返礼品にしよう」といった動きにつながったこともありました。

千曲でワーケーション参加者を迎える地元の人たちも、来てくれた人に影響を受けて動き出したり、悩みごとを一緒にディスカッションしたり…。地元の方もイベントに交流を求めて参加してくれているんですよ。

ワーケーション・ウェルカムデイズを3か月に1回やっているのは、千曲にワーケーションしに来たいなと思ったときに「次のイベントが決まっている状況」をつくりたいというのもひとつ、そして私自身もあたらしい出会いや交流のなかで、自分の中に新しい風を入れることができるのが、すごくプラスになってますね。

ワーケーションから続々うまれるプロジェクト

― 他にもイベントからプロジェクトが始動しているそうですね…?

たとえば、「温泉MaaS」は、「ワーケーション参加者の移動をより便利に、より多くの観光地に足を運んでもらうためにどうしたらよいか」をテーマに参加者と行なったアイディアソンから生まれました。

もともと千曲では公共交通機関の本数が限られていて、ワーケーション中に気分転換で外出してもらいたくても、移動手段が限られているという課題があったんです。

アイディアソンでの企画をもとに、ワーケーション常連の方や地元のエンジニアさんたちに協力いただき、モビリティサービスを組み合わせて、さまざまな交通手段を必要に応じてワンストップで利用できる「温泉MaaS」を開発。移動手段の心配や困りごとが解消され、ワーケーションをより充実したものにしていただける手助けになりました。

将来的な市民活用、他自治体の横展開を見据えつつ、まずはワーケーション体験を向上させるシステムとして実証実験を行なっているところです。

(観光列車ろくもんを貸し切るトレインワーケーションも参加者との共同企画の一つ)

― ワーケーションから課題を解決していく流れもできているんですね!

イベント参加者のみなさんも「社会課題を解決するぞ!」と意気込んでやっているわけではなく、「こういうものがあったらいいね」を追求したら、結果として地域のみなさんのためにもなっている…というような感じで。

楽しみながら、みんながお互いのためになるようなことが生まれるサイクルがまわりはじめていますね。

― 田村さん自身はどんな瞬間が楽しさややりがいを感じますか?

みんなが笑顔で話している姿がすごく好きなんですよね。ワクワクしてたり、自分のことわかってもらえたとホッとしていたり…、そういうシーンを見れると、ほんわかとテンションが上がりますね(笑)

それぞれ育った環境も住む場所も違う人たちが集まり、話をしたり食卓を囲んだりして、ある意味「多様な人がその人らしく交りあい、大人の友だちを作りあう」。そんな感覚を大事にしている気がします。

そういった点でいうと、最近千曲にできたゲストハウスの「昭和の寅や」のプロジェクトの盛り上がりは、とってもうれしかったですね。イベントでの交流がきっかけで、参加者のみなさんとゲストをつくりたいオーナーさんとでいつの間にか話が盛り上がっていて。クラウドファンディングや空き家改修など、みなさんの応援でプロジェクトがどんどん進み、無事オープンに至ったんです。

ワーケーションでのふれあいや体験をきっかけに、お互いの背中を押し合い支え合って、「見たい世界観」のために動く。
これからもそうした芽を具体化するために今後も活動したいと考えています。

― これからどんなプロジェクトや展開がうまれるのか楽しみです!ありがとうございました。

▼関連リンク

千曲市ワーケーション公式サイト https://furoshiki-ya.co.jp/workation_lab/

千曲市 団体ワーケーション紹介&申込サイト https://pro.form-mailer.jp/lp/48a27f7d205145

ワーケーションまちづくり・ラボ https://note.com/workation_lab